デザイン思考のアプローチの活用と心得
“デザイン思考を再考する” で解説した問題の発見・解決に導く5ステップがあります。それは、1.共感(観察)、2.問題定義、3.アイデア創出、4.試作の制作、5.実験です。プレゼン準備では「アイデア創出」までがプレゼン準備に活かせる工程になります。
- 1.共感(観察)
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競合プレゼン提案に至る背景、コンペにおけるビジネス要件とは別にクライアント側の担当者の抱える問題の理解。
- 2.問題定義
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企画提案の要となるビジネス要件を担当者から組織レベルで問題の粒度を再考。必要に応じて問題の解釈を再定義。
- 3.アイデア創出
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クラインとの要望(ビジネス要件/機能要件)と参加企業の特徴を理解した上で、アイデアの切り口やプレゼンのスタイルをコンペに向けた戦略を描き企画内容に落とし込む。
提案活動は、発注者の抱える問題を改善を創造する点でデザイン思考と同じアプローチが可能です。ただ、コンペの提案では、提案時間の制限(締切)があり企画書の作成には効率が求められます。
当然、ユーザー調査など時間を掛けて行う実際のデザイン思考の工程とは異なり仮説ベースの考察を行います。今回は、初動の情報整理とそこから戦略の方向性を見出すための「共感(観察)」と「問題定義」に焦点を合わせて解説していきます。
観察から「隠れた前提条件」の発見
まずは、クライアント側の課題を観察し整理していきます。具体的には、クライアント担当者と決裁者との距離感、所属する部署、社内の関係性などの社内の環境要因など知り得る範囲で情報を収集します。
デザイン思考では、最初のプロセスを対象者に対する「共感する」ステージと捉えています。しかし、ここで使われている「共感」の意味は、相手の気持ちを察し寄り添うという一般的な”情動的共感”ではなく、客観的な観察から言動の真相へ理解を深める”認知的共感” になります。
クライアント側の内部事情の収集は、担当営業とクライアント側との信頼関係に依存するため新任の営業担当だとクライアント側の詳細な情報が入手困難な場合も有ります。
そのような場合でもネットやSNS検索でクライアント側の担当者の情報を大まかに入手が出来る場合もあります。ポイントは、担当レベル、所属部署レベル、そして組織レベルなどで問題の粒度を組織構造ごとに仮説立てて提案の方向性を整えます。
例えば、LinkdInなどのビジネスSNSNで担当者の経歴や個人ネットワークで競合他社との繋がりなども確認します。また、会社のIR情報(決算短信やアニュアルレポート等)や組織改編、株価のアナリスト情報などネットで収拾し得る経営の現状を把握し、プレゼン開催の背景や意図を確認します。
ポイントは、担当者などの「人レベル」と「組織レベル」の二軸で課題を再整理することで依頼内容の隠れた前提条件の発見に繋がり、競合他社と差別化を図れる企画提案が期待される。
競合プレゼンで確認すべきヒアリング項目例
プレゼンにおける担当営業が最低限、社内へ提案依頼を持ち帰る際にクライアント側へヒアリングしておくべき一般的な項目を記載します。
これら情報が整理されているかで、コンペ提案の方向性(戦略)とプレゼン施策(戦術)の道筋が明確になり企画のアイデ創出に時間を費やせます。
No. | ヒアリング項目(例) | 備考 |
---|---|---|
1 | 社内状況 | |
予算の出所 | 社内の稟議構造を把握 | |
担当者の状況 | プロジェクトとの関わりや在籍の年数 | |
プレゼン担当窓口と他部門の関係 | 例. マーケ部門と営業部門、情報システム(IT)部門や購買部門など | |
2 | コンペ参加企業 | |
参加する企業数 | ||
参加企業の特徴(企業名) | デザイン系、コンサル系、IT系など他者の提案の特色を把握 | |
3 | コンペ開催の背景 | |
実施の理由 | 来期の予算取り、トップダウン方式、リニューアル時期など | |
プレゼン当日に決裁者の参加可否 | 経営判断などが必要な場合、経営層のプレゼン当日に参加するか確認 |
彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず
「孫子・謀攻編」
プレゼン予算は何処の部署が持っているか、それにより最終決済者が見えてきます。さらに、プレゼンの担当窓口と実際の利用部門との関係などでも、企画書の表現や共感軸をどこに向けるかなどの細かな配慮を施す材料となります。
さらに、コンペ提案では競合他社の特徴を理解することで自社のポジションを明確にした企画書の作成で差別化を持たせることが出来ます。これは、競合プレゼンの企画立案における戦略的な方向性となります。
例えば、IT系の参加企業が競合の場合、彼らの得意とするシステム要件以外のUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)に関する項目を厚くしたり、競合他社の得意とする企画内容の裏をかいた部分を自社の企画に盛り込み差別化を図ります。
逆にデザイン系の競合企業であれば、こちらの提案はシステムの脆弱性へのサポートやセキュリティ提案を付加したり運用サポート面の企画提案を盛り込むなど競合が手薄になると思われる企画を盛り込みます。
このように、闇雲に企画アイデアを考える前に敵となる競合他社がどの様なスタンスでコンペに臨むかを想像して自社の提案ポジションを構築することが競合プレゼンに挑む時の戦略であり要と言えます。
また、プレゼン当日は決済者の参加可否も確認し、参加できない場合も考慮し企画書にエグゼクティブサマリー 企画書の要約版)や用語解説などを巻末に設けて、資料単体だけで理解を深められる配慮も施しておきます。このような細やかな気遣いも、競合プレゼンで競り勝つ布石となります。
問題定義と付加価値
課題の本質を再定義する
発注側から渡されるRFPや初回の提案背景から伝わる内容は、あくまで必要最低限の情報と捉えます。前述したように与えられた課題は、必ずしも解決すべき全ての問題が含まれていない可能性があるからです。
なぜなら、クライアントも問題に対する専門性の知識があるとは限らないからです。野球の投球に喩えれば、クライアントの構えているミットに提案を投げる場合に、直球だけでなくカーブなど配球を工夫して差別化を図ることを検討します。
具体的には、与えられた問題の再定義を検討します。例えば、WEBアプリのUI(ユーザーインターフェース)改善の依頼の場合、使い易さだけで無くセキュリティ面の課題改善や運用面で効率化ができる仕組みの提案に含めます。
結果、ユーザー満足度の向上だけでなく、運用面や安全性の改善で社内の全ステークホルダー(=利害関係者)にも訴求する提案に問題を再定義し拡張することで骨太な提案に進化させることも可能となります。
つまり、競合プレゼンで勝ち抜く提案は、解決策の方向性が同様でも問題を別の観点から捉え直すことで提案の幅に拡がりを持たせられます。結果として、似通ったアイデアが出揃う場合に頭差で抜きん出て受注に繋げることに期待が持てます。
このように付加価値とは、既存の問題を再定義し、その周辺も課題の範囲として見立てた「ビジネス全体の文脈」から問いを立て直すことで新たな洞察に伴うことで導きます。
言われたままの提案だけでなく、事前に与えられたビジネス要件の意図や目的を再考して、関連する周辺文脈までに課題を見渡して再定義した追加アイデアは提案の付加価値となる。
まとめ
競合プレゼンで勝ち抜く戦略思考
コンペ提案では、提案期日の制約などもありアイデアの捻出に一番、時間を割きたいところです。しかし、初動における要件の精査が出来てないと、当然、筋のよい論点も立てられずにありきたりな提案内容で失注したり、不毛な値引き交渉に巻き込まれることがあります。
可能な限りクライアントのヒアリングから内部の状況なども推測しつつ、他社の差別化を踏まえた上で付加価値となる新たな課題を探索する思考が競合コンペで他社を圧制する切っ掛けとなります。
繰り返しになりますが、競合プレゼンの提案で勝つための基本の心得は、「情報精査なくして提案することは、闇夜のキャッチボールのようなもの。クライアントの構えているポイントを見極めつつ他社に無い配球(=追加となる新たな課題の提案)で差別化を図る」です。
もちろん、当初から出来レースの競合プレゼンも存在します。ただ、クライアント社内における“競合他社との関係性”を普段から意識し観察していれば気付けることもあります。
仮に「当て馬」で競合プレゼンに招集されたとしても、他社と異なる独自の視点でコンペ提案が評価された場合、次回のプレゼンで期待を持って招集されることに繋がります。
今回は、提案活動の基本の心得と準備を解説しました。次回は、競合プレゼンで勝つための「提案書の構成」やプレゼンテーションの「スピーチ手法」なども紹介していきます。
- 初動の情報収拾、整理で勝敗の6割が決まる程、重要な準備ステージ
- クライアント側のまとめたビジネス要件などは、問題解決における氷山の一角と捉える
- 担当者や、所属部署、組織全体などの複数視点や視座を変えて「深層要求」を捉える
- 提案要件に関わる周辺の文脈も見捉える事で提案の差別化を生み出す
- 潜在的な問題点を発見し提案に含めることで付加価値として競合他社との差別化を図る
- クライアント内部の観察と問題の再定義で付加価値を創造し競合プレゼンの勝ち筋を構築する
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