観察力をビジネスに活かすための「思考の第一矢」

目次

ビジネスにおける観察の活用

ビジネスにおいて観察は、問題解決や研究・開発以外にも対人関係における円滑なコミュニケーションや会議・ワークショップにおけるファシリテーション、または、分析や学習の向上など多用に活用されます。具体的な観察の用途を見ていきます。

観察力の主要な目的

1. 問題解決やリスク管理

課題設定や安定した管理機能の実施:例)マーケット分析品質管理オペーレーション管理

2.コミュニケーション能力や対人関係の向上

場を察したり周囲への共感:例)ファシリテーションプロジェクト管理(PM)、リーダーシップ

3. 情報整理や学習・改善

傾向を把握したり状況の整理やアイデア捻出の手がかり例)ユーザー体験の改善:WEBサイトの利便性向上や店舗サービス改善

この中で特に「2.コミュニケーション能力」と「3.学習・改善」における観察力を詳しく説明していきます。

コミュニケーション能力の向上

観察と対人関係

コミュニケーション能力の向上の観点からみると、観察とは、共感行為の一部とも考えられます。

例えば、担当者と打ち合わせをしている最中に突然ノートPCにばかり目が向いていれば、何か急用なメッセージなどが届いて来たかもしれないと想像します。

打ち合わせ内容をその担当者に適切に理解してもらうためにも、後で討議内容をまとめた議事録などを自主的にメールで送る行動は双方にとって有益な関係構築に繋がる観察から導びかれた共感行為と言えます。

このような多忙な担当者や上司に重要な伝達を行う場合、抜け漏れなく的確に伝達を行うために口頭と文章など2重に伝達する方法をダブル・スタンバイと言います。これで、相手の認識漏れや誤解を回避しつつ信頼関係を構築することが可能になります。

過去の経験で、新たに組織に参加されて間もないクライアントの担当者で社内の接点や連携が少ない方がいました。その状況を察し、こちらで社内で関係を持つ他部署との間で内部調整のサポートを行い、短期間でその担当者と信頼関係を築けたこともありました。

人が観察対象の場合、まずは対象に関心を抱きつつ信頼の構築を目指す

改善活動の向上

効果的な学習サイクルの実施

現状の問題を把握する現状分析で、WEBサイトの流入数やログ解析、または、売上げ数値の報告などが必要になったとします。

目立つ異常値(変化)が発生してる場合以外では、今後の予測や改善に費やす時間が主な作業になりれます。そのような場合、規則性や過去の類似する事象などから類推し仮説から問題の手がかりを導きます。

起こりえる問題を想定し適切な課題設定ができれば、問題の真相を分析する「5Whys分析(なぜなぜ分析)」などの手法で適切な解決策を導くことも可能になります。

この問いを5回ほど繰り返して考察を深める手法です。ポイントは、分かったつもりで早計に対策を練るのでなく、探求を繰り返して適切な解決策を導く手法です。

コラム|観察力とAI(人工知能)の類似性 (クリックで表示)

AI(人工知能)の学習方法も、今ではディープラーニングという機械学習の手法があります。従来は人間が特徴や学習定義を行い認識や判断のサポートを事前に行っていました。今では、AI自体が自身で学習する機能へ進化しました。

これにより、AIはデータから特徴をつかんで法則性を見つけ出し、識別作業や予測、対話、そして、自動運転などの自立実行が可能になりつつあります。これは、特徴を抽出して独自に推論を構築し実行に役立てる仕組みです。

学習の観点から観察力を考えると、現在のディープラーニングの機械学習の特徴である、抽出から推論を行う工程は観察の自問から仮説検証のサイクルと類似します。

観察の名人は、特徴や規則性(パターン)を見出す名人とも言えます。

AIは丸暗記ではなく特徴をつかんで法則化しているからこそ、新しいパターン、つまり未知の状態についてより正確に予測ができるようになるのです。

出典:野口 竜司「文系AI人材になる統計・プログラム知識は不要東洋経済新報社 2019年

次項では、具体的に観察力をビジネスで活かす実践するポイントや鍛え方を解説して行きます。

ビジネスに観察力を活かすポイント

想像と観察の関係

留学時に人物デッサンのクラスで、「目に見える表層の形状だけを捉えて描写するのでなく、その下層にある骨格や人体構造も想像して描く」というアドバイスを受けました。今でも深層の情報構造を解読することにこの教えを活かしています。

目に見える現象は、注意を怠らなければ誰もが察知することは容易いなことでもあります。ビジネスにおける経営課題などでは論点も複雑に絡み合い、時には想像や勘で潜在する問題の本質を探るダウジング作業*のように見えない地下鉱脈を探ることも必要となります。情報の隙間を埋め解像度を高める「想像力」は、観察力に必須の能力です。

*ダウジング作業:地下水や貴金属の鉱脈など隠れた物を棒や振り子などの器具の動きで探り当てる技術。

ポイント

個別の情報を整理する中で、点在する情報群が繋がり洞察の足場が浮かび上がり閃きに繋がる「起こり」となる

情報の解像度を上げる「想像力」

一般的なビジネスにおいては、限られた情報と時間で仮説立てを行い観察の検証サイクルを実行することで、素早く行動へ移せる判断材料を見出すことを意識することが必要です。

避けるべきことは、完璧な情報収集に固執して判断に時間を掛かけ過ぎて機会を逃してしまうことです。まずは、視野を広く持ち自問と仮説を繰り返して対象へ意識のセンサーを向けます。

例えば営業が初めての担当者と面会しに行く際、オフィス内の雰囲気や室内の備品など周囲までに目を向け、あらゆる社内の状況を観察します。

情報は単体では明瞭な意味を成さない場合も、掛け合わせることでヒントが浮かび上がらせることがあります。意識のセンサーを張りめぐらせておくことで、断片情報から情報連鎖の準備を施します。

隠れた前提条件の発見

問題解決や改善を前提とした観察の場合、隠れた前提条件の存在が背後に潜んでいる可能性があります。特にプリセールスでは、初動の情報整理で受注に大きな影響を落とします。例えば競合プレゼンの提案時では、限られた時間と情報を基に隠れた前提条件の発見がプレゼンの勝敗を左右することがあります。

逆に競合プレゼンで失注する多くの場合では、ヒアリングが不十分で担当者の発言やRFP(提案依頼書)を相手の言葉のままを受け止めて提案内容で差別化を埋めないパターンが主な原因になります。

また、不要な価格交渉を持ちかけられて、結果として見積金額で比較検討されて競合他社に競り負けるなどの状況も生じます。

初めて会う担当者がどのような立場にあるか、取り巻くさまざまな状況を察することがまずは重要です。例えば、担当者と上長との関係、担当者の部署内における立ち位置、または、組織内の部署間の関係など、個人間や部署単位、または組織レベルで思惑は異なります。

組織レベルは、経営課題の大局かつ全体感で物事を捉え、部署レベルでは部門予算の分配と消化と捉え、そして、現場レベルは作業効率の観点など、組織内の課題は捉え方や立場で異なることを意識しえておきます。

例えば、担当レベルの課題を組織単位の課題の粒度に再翻訳し、隠れた前提条件を浮かび上がらせることが可能な場合もあります。

お題となるメインの課題を検討しつつ、課題の本質的なポイントはどこにあるかを担当者を通して観察します。それにより、提案内容に隠れた前提条件をプラスαで補足提案することで競合プレゼンを有利に進めることも可能となります。

企画提案においては、関係者ごとの課題を観察して隠れた前提条件を見出す

観察力ある人の特徴

インプット情報の質を高める能動的な行動と意識

周囲に対して興味や疑問を抱く「好奇心」は、観察力の根本的な必要な資質です。また、自問や仮説立てを行い物事の本質を掘り下げる「探究心」は、対象に興味を深める「好奇心」によって導かれると言えます。

探究心」が低いく受身がちになると、言われたことだけをこなす作業者というマイナス評価で視られることもあります。

例えば、上司から調べて欲しい作業依頼を受けた場合、作業意図を確認せずに取りかかる場合と上司の意図を確認した上で作業に取りかかる場合では、後者の方がより上司が望む成果物に近づき、誤解などからやり直しなどの無駄を軽減するリスク回避にも繋がります。

ビジネスでは、曖昧な指示を受けることは良くあります。しかし、結果を残せるビジネスパーソンは、日頃から能動的にインプット情報を自ら精製し高めながら適格なアウトプットを生み出します。つまり、得た情報を問いただし、深く考察して行動に起こす一連の流れを意識しています。

この点に関して、元WBA世界スーパーフライ級チャンピオンで源ボクシングトレーナー飯田覚士氏の著書で単に「見る」行為と「反応する」ところまでが「見る力」と表現しています。まさに「見る力」とは、「観察力」とも言えます。

「目」で見るというのは、あくまで情報の収集を目が行っているというだけ。情報処理や、処理した情報に適した反応をするということまでが「見る力」です。

出典:飯田覚士『人生を変える「見る力」マキノ出版 2018年
ポイント

対象から得た新たな情報をどう解釈し反応(処理)するか、観察考察反応をセットで捉える

観察力の鍛え方

「連想と妄想」の活用で観察力を高める

よくある観察力を高める方法では、絵画鑑賞を対話形式のグループワークで実施や、日記、読書感想、写真を数秒みて記憶を高めるなどが挙げられてきました。

ただ、時間の制約などで容易に試したり継続しづらいことも考えられます。今回は、観察力を高めるにための想像力に注目した手軽に行えるトレーニング法を紹介します。仕事の隙間時間でも簡単に試せるトレーニング法です。

ポイントは、自由に想像を楽しむ「連想」と「妄想」の活用です。

1. カラーバス (Color Bath)

最初に、情報探索センサーの感度を高めるカラーバス(Color Bath)を紹介します。名前の由来は、色を一つ選んでその色縛りの情報を浴びるように探索することから付けられています。

これはちょっとした移動時間などでも行える手軽な方法です。強制的にテーマを設けることで、無意識に情報発見の幅が拡がります。それはまるで、情報の方から飛び込んでくるような連鎖反応を体験できます。

収集た情報は一見、無関係なものに思えます。これらを連想ゲームのように意図的に断片情報を繋げてストーリを浮かび上がらせます。これは、自分では思いもしない斬新なアイデアを導くことに役立ちます。さらには、アイデア発見の感度を上げる複眼的な思考を身につけることにも期待が持てます。

また色だけでなく、形状、音など他の観察軸に代えて実行することで収集する情報の幅も変わり飽きることなく行えます。これを偶然の出会いから、新たな発想を生み出すセレンディピティ体験とも言います。

2. 贈り物を妄想する

次は、誰かに贈るためのプレゼントを考える(想像する)ことで観察力に必要な他者への共感や理解を深めるトレーニングです。ポイントは、口頭で直接的に欲しているものではなく、相手の日常を想像しながら考えます。

例えば、身近な同僚の好きそうなおやつをコンビニで購入して本人の反応を確認するなど手軽に検証も出来ます。ひとの趣味嗜好を読み解く感覚で観察力を養うトレーニングです。

3. 人物の特徴を模倣する

後に観察眼を鍛えるた特徴をつかむ“ものまねトレーニング”です。特定の人物を選んでその特徴を考えます。声や仕草、雰囲気、また、身につけたている物や普段の口癖などその人の癖や特徴を思い返します。

このような特徴の抽出作業は、学びにおける基本の能力でもあり、デッサンも描く技術面だけではでなく特徴を読み取る能力として模写を学ぶ側面があります。

実際に絵を描くにはハードルを高く感じる方も多くおられると思われますが、人の特徴を想像するだけであれば場所や時間に関係なくどこでも行える想像の世界で実行できます。

コツとして特徴を捉える際に、他に例えるような抽象化を利用すると連想が働き易くなり多くの特徴を導き出しやすくなります。例えば、見た目や雰囲気が芸能人に似ているひとが居ないか探すことで特徴を具体化しやすくなります。この類推から発想を紡ぎ出す方法をアナロジー思考とも言いえます。

これらトレーニングはどれも気軽にいつでも行え、情報連鎖による気づきや視点変換、共感など観察力に必要な素養を刺激します。

まとめ

洞察の扉を押し開くために

観察を実行する時には、あまり難しく考えずに対象を理解するヒントとなる情報を広く意識します。その意識は、思考の第一矢として連鎖反応の発想ドミノ倒しで洞察の扉を押し広げていきます。

まずは、こころに感じる理由を問いながらパズルのピースを繋ぎ合わせて初期仮説を立てます。そこから仮説検証を繰り返すことで、多面的な情報構造の輪郭が浮かび上がり新たな気づきや深い洞察へと繋がり出します。

その中で変化や差分、類推や傾向などの着眼点で背後の意味や文脈をさらに浮かび上がらせていきます。特にビジネスシーンでは、さまざまな思考の技術や問題解決の技量が必要とされますが、それら能力の礎となるのが「観察力」であり思考や行動の推進力となる重要な役割を持ちます。

総評:観察力をビジネスに役立てるために
  • 観察とは「観る力(=探索)」と「気づく力(=繋ぐ)」で構成される
  • 意識することで変化や兆候などに敏感になり、鋭い洞察に繋げる足場を生み出す
  • 観察→考察→反応をセットと考え、良質なアウトプットを生み出す
  • 見る行為と認識にはギャップがあり、好奇心や探究の意識で観察の壁を乗り越える
  • 関わるステークホルダー単位の粒度で課題を分解することで隠れた前提条件の顕在化する
  • 視点変換や想像力が観察力を高める必要な要素となる

参考文献

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イメージ画像|仕事に活かす観察力とは探索と気づきによる新たな発見を解説します。

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