“デザインはセンス”の幻想ーノンデザイナーこそ仕事で役立つ「色のイメージ」

アイキャッチ画像|色とイメージの言語化で共通認識を持つ
色彩の選択はセンスでなく理論で解決する !?

営業資料や社内向け告知で外部のデザイン会社へ依頼するまでもなく、自分で簡易的な制作物を作らなければならない時に「自分には(デザイン)センスが無いので…」と嘆く方が居ます。そもそもデザインは、センス(感性)が全と誤解されていると考えます。

日常だけでなく仕事においても少しの色の選択に関する理論を知っていれば、誰もがコミュニケーション手段として効果的にイメージを構築(表現)することは可能です。

それはカラーコーディネーターなど専門的な色彩情報(色相、彩度、明度)や配色ルールを暗記する必要はありません。一般の”ノンデザイナー“が仕事などに役立てられる心理学的要素としてのデザインリテラシー色の選択手法を知るだけです。

今回は、仕事で手軽に役立つ「色の持つイメージ」にポイントを絞って色の選択方法を解説していきます。キーワードは、受け手側の心に届く「色と言葉の相関関係」です。

それは色の持つ共通イメージとなる言葉を判断軸にすることで、直感や主観に頼らない色の選択を行うことでコミュニケーション行為をより効果的に実行することが期待されます。

目次

色の持つイメージと効果

色に対する微妙なニュアンスや嗜好性の感じ方は個々で異なりますが、共通する感覚も存在します。それらは心理的、生理的、物理的な観点で私たちに影響を与えていると言われます。

赤やオレンジなどは気持ちを高ぶらせたり警戒など、青や緑は気持ちを落ち着かせたり寒暖差を感じさせたり食欲の抑制など、また彩度の低い暗い色では重量や硬質などで色は多様なイメージを想起させる働きがあります。

これらイメージに影響を与える要因として、気候や環境などの地理的要素や宗教や文化的背景、年齢や性別などの集団属性による体験や経験などで印象の違いが起こります。

アジア4カ国で「子供らしい」と思う色を選んで貰う調査結果では、日本はオレンジ色が一番多く選ばれ、中国ではクリーム色、タイ国はホワイト色、ベトナムではピンク色が選ばれ国ごとの特徴が表れました。

海外展開するグローバル企業では、現地でイメージ調査を行った上で地元に受け入れて貰える色の調整を行うことも頻繁にあります。

色の持つ基本的なイメージを理解することは、デザイン要素として色が適切に情報を伝えることが出来るコミュニケーション能力でもある。

色の言語化と相関関係

一般的に色に対して個人の主観や嗜好が影響すると考えられがちですが、色のイメージを言語化し分類していくと共通性があることが心理学的研究で解明されてきました。

日本では、1967年に色と言葉の相関関係を分析し主要なイメージ構造を開発した(株)日本カラーデザイン研究所 イメージスケール© が発表され国内の工業規格やカラーマーケティングに利用されてきました。

イメージスケール©とは、横(X軸)のWarmCool軸と縦(Y軸)のSoftHard軸による2つの心理的な基準軸を基にした言葉と色を心理学的に相関関係を整理した4つのマスの4象限スケール表です。

言語イメージスケールの概要:言語を手掛かりにさまざまなイメージを同じ尺度で比較分析する
言語イメージスケール©の参考例

Clear-Grayish軸のZ軸に設けて3次元構成の立体空間により詳細な色のイメージを整理する方法がありまが、今回は言語と色の相関関係を理解してもらうために簡易的な単色構成の「2次元構成のマトリックス(表)」で解説していきます。

イメージ判断基準:SOFT-HARD,WARM-COOL,GRAYSH-CLEARの3D構造
3次元構成のイメージスケール©の概要図

この色と言語イメージの相関構成の4象限を利用することで、伝えたいイメージに合う色を迷わずに選ぶことが誰でも可能になるだけでなく、個人の主観や感覚で色を選ばずに客観的な選択ができるため他者との共通認識や合意を取りまとめやすい利点もあります。

色彩イメージスケール©の活用例

実際に資料などを作成する時に、まずはどの様な印象を受け手に伝えたいかキーワードを考えます。その際に色彩イメージスケール©の4象限を用いて近いキーワードを表中から当てはめていきます。

ここでのポイントは、キーワードの当てはめる位置は大まかで構いません。あくまで言語化したキーワードを4つのマスを活用した4象限(Warm /Cool/Soft/Hard)で分類し「デザインの方向性を見据える”見える化”」することがイメージスケールの最初の役割になります。

イメージスケールの単色見本
単色の色彩イメージスケール©の参考例

例えば新サービスの広告制作を検討する場合、「登場感」と合わせてターゲット対象となる株主に抱いて貰いたい自社イメージを言葉で選出します。「先進性」、「デジタル」など提供するサービスや商品を表すキーワードを複数、選出していきます。

選出したキーワードから特に重要と思うキーワードに優先順位を設けて絞ります。そしてその言葉が表す最もふさわしい色彩をイメージスケールと照らし合わせます。

複数の選出キーワードが表中で大きく離れて存在する場合は、多色による配の色組み合わせを試みます。その時には配色ルールや色の割合などの専門的な知識が必要となるため配色見本などを参考にすることをお奨めします。

ルービックキューブを用いて色彩の配色をパズルのように喩えたイメージ画像。
立体パズルを組み立てるように色とイメージの相関関係を基に配色を組み合わせていく

デザインプロセスとの共通性

色を選択するプロセスは、デザインを起こす際や商品/サービス開発の工程と類似する部分があります。参考までに大まかなデザインプロセスの例を掲載します。

STEP
メッセージ選定

伝えたい意図を言語化(キャッチコピー)

STEP
ターゲット選出

そのメッセージを届けたい主な対象を想定

STEP
KEYカラーの決定

コンセプトである言葉に表したメッセージとデザインの統一感を生み出す

STEP
ビジュアルの形状要素の見立て

メッセージとビジュアル要素の整合性や統一感を形成

※上記デザインプロセスは、説明用の簡易的な流れとなります。事前の市場調査(=デザインリサーチ)などは今回は含まれていません。

色とイメージの相関関係の策定プロセスは、最初に目的を言語化しそのイメージに近い色を抽出するためにイメージスケール©から関連する色を抽出してきます。その時に対象となるターゲットを見据えていく行為は、デザインのコンセプト設計と同様の流れになります。

ノンデザイナーは、Step1からStep3までのデザイン中心部分の工程をイメージスケール©を用いることでデザイン制作の専門知識が無くともデザインコンセプトの策定も実施することが可能です。

色選びの実践方法:営業資料の最終整形

色の客観的な表現と伝達ポイント

営業の手持ち外部向け資料の場合、有る程度の規模の組織であると資料のひな形としてデザインテンプレート化されデザインを自由に変更や作成が出来ない場合もあります。今回は、資料のデザイン規定が無い場合を想定して説明します。

研究論文のような文章だけの白黒資料の場合、そもそも内容に興味が無い人には資料を最後まで読む意識は低いと考えられます。興味を持って貰うためにも、色や図版など目を惹きつけ飽きさせない工夫が必要です。

まずは資料内容の構成を一通り仕上げた後、資料の目的を改めて明確にします。新製品やサービスの紹介である場合、資料としての分かりやすさや伝達力などは当然のこととし、受け手にどの様なイメージを抱いて貰いたいかを決めます。

次にそのイメージのターゲットを想像しメッセージとターゲットの相関関係を探求します。新製品が「先進性」で売り込むターゲット層が企業の役員レベルであればキーワード:「信頼」、「権威」などキーワードのポジションからイメージカラーを選定します。

基本の3色構成と余白

ビジネスに限らず資料として読みやすさに配慮する場合、色はあくまで補足要素と考えます。色数はベースカラーとなる文字色(黒)と、キーカラーと強調などを施すアクセントカラーの合計3色で最初は検討します。強調を表す場合なども、色に頼らずに太字にしたり下線を引くなど、形状を変化させることでメリハリとなるコントラストを平面上に生み出すことも出来ます。

ここで伝えていないもう1色が存在します。勘の良い方は既に気づく方も居るかもしれません。それは、余白としての白色などの背景色です。印刷業界では余白色を「紙いろ」と言います。

余白の使い方で、平面構成にゆとりが生まれゆったりとした雰囲気を生み出します。その逆に、余白の少ない場合は忙しく窮屈な印象を喚起させてしまうので注意が必要となります。

色使いの優先と色数

またビジネス資料でキーカラーは、コーポレート・ブランドカラーを利用することが多くあります。その場合には、アクセントカラーにイメージとして伝えたい色をイメージスケール©から選択していきます。

注意が必要なのはコーポレートカラーが暖色系のオレンジを用いて居る場合など、先進性やテクノロジーのイメージを表す寒色やグレーなどの補色が書面上で混在する場合は、色彩の配分や並びの配色で印象が単色の場合より大きくイメージが異なる場合があります。

このような時も資料の目的として自社を印象付けたいか、もしくは新製品/新サービスを中心に印象付けを施すか目的を明らかにして最初のコンセプトからブレない配色を心がけます。

ビジネス資料の色使いは、色数を無駄に増やさずシンプルにしつつも論文のような無味乾燥で飽きてしまう様にならない工夫が重要です。資料全体を通して意図するイメージを喚起するためには、色数を増やさずとも同色の明度を変えるテクニックも効果的です。

例えばベースの文字色である黒の明度(色の濃さ)を変えて、グレーに変化させて重厚感から上質で落ち着きある印象へ色数を物理的に増やさずに色のトーンの変更だけでイメージを拡張することも可能です。

ビジネスの資料は、1.ベースカラー、2.キーカラー、3.アクセントカラー3色構成を基本に情報の理解促進と印象づけの為に色を活用。色数は3色以内を念頭に置きつつ、同色の明度を変えることで物理的に色数を増やさずとも統一感を維持しつつ印象を深める効果もある。

まとめ

コミュニケーションを円滑に進める色使い

グラフィックデザイナーとして従事していた時、クライアントとデザインコンセプトを詰めていく時にこのWARM-COOL, SOFT-HARD4象限(=マトリックス)を用いて最初にデザインにおけるコンセプトを言語化し共有しました。

このツールの良いところは、簡単な4象限の構成で何処でも書き出せること。打ち合わせの最中にノートやホワイトボードに書き出してデザインの方向性となるイメージを視覚的に共有できる手軽さにあります。

その時は、詳細なキーワードの表中の位置を覚えていなくでも大まかなポジションだけをその場で確認できれば良いです。例えばWARMかCOOLで有ればCOOL寄りで、SOFTとHARDであればHARD寄りだと合意できれば4象限の右下の方向性がデザインとして求められる特徴として掴めます。

詳細の配色は、イメージスケールを後ほど参照して配色を選択していけば方向性に合意していれば問題ありません。この共通認識が合えば、後に意見が別れそうな時にも振り返ることで軌道修正を容易に出来ます。

さらに、デザインの根拠をプロジェクト関係者以外の役員などに後に説明を施す際にも、このマトリックスを提示することで客観的に合意を促しやすくなります。

ノンデザイナーが本格的なデザイン制作を担うことは現実には希なことですが、このマトリックスを利用すれば営業販促物や資料作成、簡易バーナー広告の制作なども簡易的に色の選択が出来ます。

主観やセンスに頼らないイメージスケールの活用は、簡単な資料作成からデザイン依頼時のコンセプト確立や確認など幅広く活用が出来て、ノンデザイナーがビジネスにおいてイメージ構築に役立てられる万能なコミュニケーションの技術でもあります。

今回は、色のイメージと選択方法を4象限のツールを利用した方法を紹介しました。更に実践的な多色の配色ルールや配色割合など実践的な色使いの法則ついては参考サイトと書籍のリストをページ最後に掲載しておきます。興味がありましたら、ご活用下さい。

まとめ:【ノンデザイナーが知るべき「色のイメージ」】
  1. 色には心理的生理的物理的な印象が存在し大まかな共通感覚としたイメージが存在する
  2. 印象に影響を与える要因には、年齢、性別などの属性地理、文化、宗教など環境要因などの経験による印象の差違が生じる
  3. イメージを言語化し色との相関関係を表した4象限(WARM/COOL/SOFT/HARD)から、デザインとして伝達したい方向性を言語化したイメージで表しそれに紐付く配色を主観に頼らずに導く
  4. ビジネス資料は、1.ベースカラー、2.キーカラー、3.アクセントカラー3色構成を基本に色数は押さえる
  5. 余白の取り方でも印象は変化する
  6. 文字色などのベースカラーも濃度を変えることで色数は押さえつつ印象に拡がりを持たせることが可能
  7. 色のイメージを知り活用できるとコミュニケーションを円滑に進める手段にもなる

参照WEBサイト&参考書籍

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アイキャッチ画像|色とイメージの言語化で共通認識を持つ

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