考え抜く技術としてデザイン思考を再考(2021年 改訂版)

"デザイン思考”という言葉のイメージ惑わされないその本質とは何か?
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仕事の現場やビジネス書などで出逢うことのある「デザイン思考」というキーワード。「デザインセンスは無いから」「制作やブランディングなどは専門外だから関係が無い」など、はじめて耳にする多くの方は、“デザイン”という言葉の響きに少し距離を取られる方も居るのではないでしょうか。「デザイン思考」とは、商品やサービスの改善やユーザー満足度を高めたり新たなアイデアを創出するために人を中心に据えた実証型の発想法であり、問題解決を達成するための手段の一つです。今回は概要やポイント、課題などを解説していきます。

目次

アイデアを蒸留/精製するプロセス

まずはじめに、冒頭にデザイン思考の特徴の一つとして、「人を中心に考えた思考プロセス」を挙げました。デザイン思考の定義は一様ではありませんが、ただ共通する考えとしてデザイナーがビジネス課題に対しビジュアル面、プロダクトの形状、そしてサービスを創出する過程における創造的な行為:観察、共感、試作、実験などを繰り返し行いながらアイデアを蒸留/精製するプロセスに例えられます。ここでは「デザイン」の意味を振り返ってみましょう。

デザインの役割と歴史

装飾美と機能美

デザインの重要性 ”で「デザイン」の語源の解説をしていますが、デザインには「装飾美」以外に、かたちに落とし込むため、その背景にある問題の解決を計画する全体プロセスも指しています。まずは一般的なデザインの歴史を大まかに見ていきましょう。

19世紀後半、イギリスの産業革命に伴う大量生産の工業製品に対し、職人の作る装飾美への回帰思想:「アーツ・アンド・クラフト運動」が誕生しました。その流れから建築、工芸品まで様々なプロダクトに影響を与えた自然美を模したアール・ヌーヴォーが流行しました。この頃のデザインは「装飾美」としての意味合いが濃く残っていた時代でした。

20世紀に入ると、デザインの様式も変化し、近代機械産業の技術の恩恵との融合する流れで「機能美」や「合理性」を追求するシンプルなスタイルが生まれていきます。その進化の中で、エルゴノミクス(人間工学)という思想・技術も生まれ、デザインは「装飾美」からより多層的な視点を取り込んでいきます。

人を中心とした問題解決の“設計”

その後、デザインの定義は更に進化を続けます。大きな転換期を迎えたのは90年代、コンピューターやプログラムなどのIT技術の進歩と一般生活への浸透です。

パーソナルコンピューターの普及、インターネットを介して新たなコミュニケーションが生まれ、プログラム言語で作られる“アプリケーション”に私たちの生活が囲まれるようになります。

結果、デジタルライフが進歩する中で、スクリーンを中心とした動画や音声入力などの新たなテクノロジーの出現で、利用者の立場に合わせた製品設計や新たな仕組み作りの必要性が高まりました。

人間工学を基盤とし、使いやすさユーザビリティ)や満足度を維持するユーザー体験User Experience: UX)のために、人間中心設計Human Centered Design)の思想が浸透していきます。

2000年に入ると、プロダクトやサービスにおける課題の抽出、解決策の策定などにデザイナーが制作過程で用るデザイン思考のステップが、米国スタンフォード大学などで工学部の生徒向けカリキュラムがはじまります。

googleやapple、P&Gなどの社内で、デザイン思考を活用したプロダクト/サービス開発事例がビジネス書などに取り上げられるようになり、広くデザイン思考が知れ渡るようになりました。

デザインとは、この様に私たちの生活様式や環境の移り変わりと共に変容して来ました。また、物質的なモノ(プロダクトやビジュアル)だけでなく、生活環境やその仕組みなど物事を形成する行為の全てがデザインと言えます。(例:都市開発計画や防災計画、キャッシュレス決済の経済構想など)

次に、実際にデザイン思考をどのように活用するか、基本プロセスである5つのステップの概要例を紹介します。

デザイン思考の5つの基本プロセス

プロセスとして、全体を5つのステップに分割し、その中で発散と収拾のステージ(役割)が存在しますここでは代表的な「5つのデザイン思考のステップ」を解説していきす。

STEP
共感:Empathize発散ステージ

まずは、“ヒト”に焦点を合わせます。対象者の理解を深めるために、次のような手法:対話(インタビュー/アンケート)観察、ユーザー体験の再現などを通し、そこに存在する問題の文脈を文章や本人の言葉で再現(=可視化)します。ここでのポイントは、無意識の心の動きや事実(=インサイト)を相手の立場になりきって学習することです。それはまるで霊媒師のように本人になりきり、その視点で事象を捉える行為とも言えます。

目的:ニーズの発見

STEP
問題定義へ:Define収拾ステージ

共感ステップで発見してきた要素をパズルのピースのように繋げ、重要な箇所を抽出し可視化する作業を行います。このステージではチームで、課題の主人公の人物設定(=ペルソナ)を詳細に創り、その主人公の冒険物語(=ジャーニーマップ)を描きます。この課題の”見取り図”を整理しながら、解決すべき問題の所在(=ペインポイント)を可視化していきます。ポイントは、問題は、必ずしも一つでは無いということ。複数ある場合、その解決における優先順位を付けるところまで行います。

目的:ストーリー(課題骨子)の詳細化と課題設定

本質を問い正した適切な問いを立てること=課題設定がデザイン思考で最も重要なステージになります。

STEP
アイデア創出:Ideate拡張ステージ

いよいよ、問題解決のアプローチ(=アイデア)を考えていきます。引き続きチームでブレーンストーミングなどの手法を用いてより多くのアイデアを創出していきます。ポイントは、前回に決定したペルソナとジャーニーマップに沿ってアイデアを生み出す中で、他人のアイデアを批評的な眼で見ないように進めます。あくまで擬人化したペルソナの視点という客観的視点で、より多くのアイデア(可能性)に拡張させてストーリーを構築していきます。

目的:ストーリー展開(問題解決)の選定

STEP
試作の制作:Prototype収拾ステージ

選定したアイデアに基づいてプロトタイプ(試作品)を作成します。ここではあくまで時間、お金を掛けずにアイデアが理解できるレベルの簡易的な試作品を素早く作成します。手書きや紙芝居、簡易的な工作レベレで構いません。アプリケーションの場合は、手書きで紙の簡単なスクリーン設計図、サービスの場合は、オペレーションの流れやサービスチャート図をポストイットで視角化するだけで構いません。ポイントは、第三者とその試作を元に対話が可能であることです。

目的:ストーリー展開の舞台演出やシナリオの実証

STEP
実験:Test発散+収拾ステージ

自分たちの解決策が期待通りの結果になるか、第三者でテストしその利用などに関する感想(フェードバック)を集めます。ここでは多くの説明を施さずユーザーに利用は委ね、その状況をビデオ撮影したり言葉に出してもらいながら作業をしてもらいます。特に非言語に現れる潜在意識など、ユーザーの機微を観察し改善ポイントを見いだしていきます。ポイントは、思い込みを排除した上でアイデアの着眼点を再構築する機会を見いだすことです。それは、アイデアを浄化させて深い潜在ニーズに到達するためです。何故なら正解は、ユーザー自身の中に潜んでいるからです。

目的:テストシナリオ(試作)の修正

5つのステップは必ずしも直線的で一方向の流れでなく、実際にはステージ間を行き来しながら概念を深めていきます。

デザイン思考の成功の鍵|正しい課題を導く

ここで紹介した5ステップは、デザイナーがデザインを創り出すための代表的な思考工程です。アイデアを紡ぐ作業をチームで繰り返していきます。あまり慣れないうちは、自由に発想し実行することが不得意に感じるかたも多いかと思います。

繰り返し行うことで失敗からも学べることにも気づくでしょう。より多くのアイデアや試作の作成を実践しそれをユーザー視点で見つめ直し浄化するためには、考え過ぎずに素早く繰り返し行動することが重要になります。

また「共感」という対象ユーザーに対する興味の扉に目を開き、固定概念をリセットさせるための心のストレッチ運動と考えてみてください。固定概念が少しずつ剥がされていく中で、ユーザー視点で、問題発見課題設定問題解決の自然な流れが誰でも身に付き決まった課題を解くので無く、解くべき課題を導くことがデザイン思考の成功の鍵と言えます。

デザイン思考の国内の導入状況

国内浸透の兆し

国内でもデザイン思考に対する興味関心は、セミナー開催頻度や関連書籍の発行状況、またデザイン思考の検定テストの開催や大手企業のテスト導入件数の増加傾向から徐々に高まる傾向が読み取れます。

出典:デザイン思考テストWEB「大手企業、教育機関など150社以上が導入

国内企業でデザイン思考のプロジェクトを導入するニュースも見受けられてきました。大手企業では、パナソニックの商品開発を事業部横断で進める組織や、ヤマハの社内公募制による企業内起業家の育成や富士フイルムなどデザイン思考の組織導入の事例があります。

出典:WEB「日経XTREND「デザイン思考の次」

自治体の取り組みでは、福島県は産業振興課が中心となり地元の中小企業のモノづくりをクリエーターの知見と結びつけてデザイン思考を導入した新たな商品開発や販売戦略までを取り組む支援活動が行われています。

特設サイトには、デザイン思考によるモノづくり方法を、「クロスSWOT分析」や「3C分析」などのフレームワークを誰でも試せるようなテンプレートのダウンロードやわかりやすい情報発信やセミナー開催などを取り組んでいます。

出典:福島県デザイン思考ものづくり支援事業WEB「ふくしまデザインプロジェクト

デザイン思考の失敗要因

社内導入時に気を付ける7つの課題

デザイン思考も時間はたちましたがビジネスシーンや大学の授業にまで取り扱われるほど注目は未だ続いています。しかし、海外事例ほどの多くの成果を耳にするには、今はまだ夜明け前でこれからであると感じます。

福島県などの事例のように中小企業が新たな商品開発などを行うための導入は、組織内の意思決定の速さで導入障壁も低いことは想像し易いことです。

ある程度の組織規模と歴史を有する企業の場合、新たな取り組み自体に組織文化として理解浸透の時間が掛かることが考えられます。ここでは導入における留意点や問題点を整理して解説していきます。

1.目的の明確化

思考のフレームワークは、扱う題材に対してそれぞれ特徴があります。デザイン思考の場合は、ユーザー起点で問題定義を深める外から内に向けた思考の流れが特徴です。

既に存在するユーザーに対する問題改善や横展開にアイデアを展開する流れは特としています。新たな市場開発や全くの新規事業の創出の場合は、デザイン思考単体ではなくアート思考とクリティカル思考などのビジョン形成などの価値創造に長けた思考のフレームを目的に合わせて併用することが必要になります。

2.プロジェクトのメンバー選定

デザイン部門がある組織がデザイン思考を引率する場合でも、プロジェクトメンバーは関連する事業部門や管理部門など部署を横断した多様なメンバー構成がアイデア創造の観点だけでなく意志決定においても理想です。

特に事業部門は組織の中心として発言権を有し、斬新な改善策に対して慎重になる傾向があります。初期から参画してもらい組織のサイロ化を避け社内共創の場を目指します。

3.組織お墨付きか勉強会スタート

ボトムアップの部門横断で開始する場合、就業時間内の活動となると当然、組織の承認が必要になりまが時間外で同士を募る非公式の勉強会レベルのスモールスタート型式もあります。その場合は、各上長への打診と定期的な報告を行い、いつでも巻き込んでいける準備を施しておきます。

3.プロジェクト運営環境

固定概念を取り払うことや役職や部門間の関係を感じさせないフラットな場を作ることが最初に重要になります。理想は、いつもの環境と違う場所を準備できると理想的です。

座る配置でも上座などが関係しない円形などのテーブル配置を検討します。因みにデザイン思考でユーザー観察から始める理由は、客観的な事実の認識合わせがあります。これにより、固定概念を払拭し対象者に意識を向ける意味があります。

4.発言を促す仕組み

デザイン思考に限らず活発な意見交換になれて無い参加者であると、自分の意見に固執したり相手の意見に最初から懐疑的で否定的な態度を取りがちになり発言が滞りがちになります。

外部のファシリテーターの専門家に依頼していない場合は、発言者とアイデアを分けるためにポストイットなどに書き出した意見をホワイトボードや壁に貼りだして情報として整理するなどの工夫を施します。

5.正解の無い学習活動の理解浸透

私たちは学校受験などの進学教育の中で、「絶体解」を導き出す受験テクニックを身につけることが社会に出る直前の教育として一般化されていました。デザイン思考で導きだす方向は、正解が無い「納得解」です。

そのために素早く試作と検証を何度と繰り返し実証を重ねながら納得いくアイデアを精製していきます。焦りは禁物です。これを表した表現がIDEOの言う「Desghing thinking is mindset: デザイン思考は、心構えである」を表していると考えます。失敗を恐れず全てから学ぶ心構え(=学習活動)が必要です。

6.正しいユーザー観察

人間中心設計(HCD)は、デザイン思考の起点として重要で初期にユーザー観察より扱うべき問題定義を導きます。その観察手法の中でユーザーインタビューでありがちな失敗は、ユーザーの感想や意見をそのまま受け止めてしまうことです。

特にプロトタイプの感想に関してその理由を掘り下げて確認しない場合、問題の本質が不明になりアイデアを生殺しにしてしまう可能性があります。ユーザー中心の思想とは旧来の顧客至上主義とは異なり、ユーザー自身の無意識にある要望を発見し本質を問い直す洞察力が成功の鍵になりす。

7.ありきたりなアイデアの量産

前述の問題定義を誤った結果、ありきたりなアイデアしか出てこないケースがデザイン思考のワークショップでよくあります。その原因は、本質を問う洞察が浅いために起こります。前述したようにアイデアが飛躍しないと結果として普段と変わらない発想に留まるケースが頻発します。

デザイン思考が役立たない印象に陥る場合は、正しい問いを設定できない場合に起こります。デザイン思考に限らず発想力の起点である正しい問題設定をすることが一番の課題と言えます。

まとめ:組織の導入課題と本質の理解

スポーツと一緒で、理論を学んだら実践して知識を知恵となるよう実験を繰り返します。最初は少人数からはじめていき、徐々に組織内部へ浸透させる方法を模索します。

デザイン思考の組織に導入時における主な課題として、企業文化、組織構造や評価基準、目的意識の不統一などが引き起こす組織内の壁が出現します。

また、デザイン思考のプロセスを全て覚えて順序通りに進めるだけでが重要でなく、思考の起点を技術やモノに置く発想からヒトを中心に据えた視点と視座を調整し真の課題を見出すことが鍵になります。

そのためには社会や周囲に対する興味関心を普段から抱き、共感と客観視する意識がデザイン思考を取得するポイントと言えます。デザイン思考とアート思考の関係やその違いに関しては、下記の記事にも解説を記載してますので合わせてご確認ください。

“デザイン思考との違いと共通点”

“イノベーション開発におけるデザイン思考とアート思考の関係性”

まとめ:【デザイン思考とは】
  • デザイナーが創造的なアイデアを生み出すための行程である、共感、ストーリーテリング、実験などを活用
  • 直線的な行為でなく、繰り返し学習を行う意識で深い洞察とニーズを導く
  • 人(ユーザー)を基点にし、プロトタイプは時間を掛けずに素早く作り実験を繰り返し学ぶ姿勢
  • 解決すべき真の課題を発見するための正しい問いの立て方が重要

参考文献

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