アート思考もデザイン思考でも、筋の良い問いを立てることが斬新なアイデアを生み出せるかに大きく影響します。川の上流が淀んでいれば下流はさらに濁った水質に陥るのと同様に、初動で筋の良い問い(論点)を立てることが最適なアウトプットを創造するためには重要です。
今回は、アート思考やデザイン思考を通して適切な問いを導き出すための「問いのデザイン」を探索していきます。
問いのデザインとは
適切な問いを見立てるために
解決すべき論点を紡ぎ出す「思考のストレッチ」
以前の記事で“アート思考とは ” で解説したように、アート思考は社会へ提供する価値を自身の内面から見出すことが起点となるのに対して、デザイン思考は対象となるサービスやユーザーの抱える潜在的な価値観を掘り起こし問題解決を行うことが主な特徴です。
動機が内発か外発かは異なるも、観察や現状分析を通してどのような問題を論点として設定をするかは共通する課題です。それは「どう解決する=HOW」よりも、「何を解決するか=WHAT」を深掘りして適切な問いとして設定(=デザイン)することがまずは重要となります。
陥りがちなアイデア出しの失敗例
陥りがちな失敗例として、表層の事象や問題に固執して解決すべき問題の本質に到達できずに期待を下回るアイデアの量産が挙げられます。また、固定概念に縛られて独創性を欠いた予定調和なアイデアに帰結することも。
これを視覚機能に喩えると、焦点が一点のみに合わされた集中型視覚システムの中心視と言えます。これは視野が狭まり表面部分しか捉えられず、さらに執着が生まれる原因にもなります。言いわば、固定概念に囚われて活発な思考が阻まれている状況です。
それに対して視野を広域で捉える周辺視は、中心視だけでは見落とされがちな周囲にある多様な関連情報への気づきも起こりえます。
最初にどの様な問題を解決すべきか課題を周辺視で意識し、既存の問題点や論点に対して多角的で広角な視野で臨むことが必要
発散と収束のステップ
「引き」と「寄り」の思考のピント合わせ
この周辺視を活用するために発想を一度、拡げる「発散 : Divergence」と出て来たアイデアを整理する「収束 : Convergence」ステップのセットされた思考プロセスが有効です。
これは「鳥の眼」で可能性の全体像を引きで捉えて俯瞰しながら可能性を拡げて「虫の眼」の寄りの視点で細部を確認し整理するカメラのレンズの「引き」と「寄り」の絞りのように思考を「発散」させ「収束」させる思考の手法です。

さらに発想を生み出し施策までに落としこむために、この「発散」と「収束」のセットを繰り返す”ダブル ダイアモンド” と言われる2段階の思考プロセスもあります。
前半はあらゆる可能性(=What)を探索する「問題設定」ステージ、後半は実施方法(=How)を選定し形作る「問題解決」ステージの2部構成からなります。

予定調和なアイデアに終わる失敗例では、前半の問題設定のステージで発想が十分に発散できず既存の枠を超えるまでの十分な飛躍が起きないことが原因です。また、早計に解決策に意識を向け先細りの発想を生むことも注意が必要です。
「問いを立てる」ための視野角の拡張
一般的には、多様な観点で対象や事象を観察しながら物事の関係性である因果関係を見極めることが重要だと言われます。内田和成氏の著書で、固定概念や偏見などの主観的認知が妨げの基本的要因と説かれています。
人は誰でも事象を見るときに、知らず知らずのうちに決まった視点で見ている。つまり、自分なりのものの見方をしてしまう。(中略) 陥りやすいのは、だれでも自分の視点に固執しがちで、あるパターンにはまりやすいということだ。
出所:内田和成「論点思考」 東洋経済新報社 2010年
つまり「問いを立てる」とは、事象として起きている表層の問題点を見極める分析や鋭い観察で深い洞察を導くような慧眼(けいがん)とも言えます。
例えばビジネス課題として「新規入会数の減少を改善」、「リピート顧客の売上げ減少を回復」などのお題が上がったとします。勿論、組織内の営業目標として間違いではないのですが、このままの論点で議論を進めるのではでなく、さらに掘り下げたり既存の問いに揺さぶりを掛けて論点の視野領域を押し広げていきます。
なぜなら起きている事象をそのまま問題に設定しても、その背景にある因果関係が不明瞭ではありきたりな解決策しか見い出せないからです。
そうならないためにも、事象を俯瞰し視野を拡張して問いの焦点を掘り下げて論点の解像度を深めて新たな「問いの発見」となる視点を導くための思考のストレッチが必要になります。
例えば、「高齢者に継続的に利用してもらうスポーツジムを考える」という課題があるとします。この場合、入会キャンペーン施策や利用頻度を促すプログラム開発にのみ意識を向けるのではなく、「学びから生涯を通したライフスタイルを提供できる環境と地域社会との繋がりを提供する場作り」など、スポーツジムのあるべき姿を再定義してみます。それにより、想定を超える新たな発想の枠組みを見出すことに期待が持てます。
独創的な問いを立てる工夫の一つは、論点をあらためて問いただし、着想の視野を拡げ発想の枠組みを変える

気づきを導く方向性としての仮説設定
デザイン思考の初期プロセスにおいて、いきなりユーザー調査やインタビューなどの観察から現状把握を行う前に、まずは「仮説設定」を基に方向性を見据えた上で効率よく対象の観察作業を進めて気づきを導きます。
もし「仮説設定」を行わずに漠然とした状況で観察活動を行っても、観察すべきポイントが曖昧な中では範囲が拡がり過ぎて時間を必要以上に要する事態に陥ります。
また、仮説の検証を繰り返すことで思い込みや固定概念から抜け出す仕組みになります。つまり、仮説の検証で新たな「問い」を立てる状況を設けることで既存の枠組みの外側から思考する意識を作り上げます。
発想を揺さぶる「問い」と「仮説」の検証サイクル
「仮説設定」では、個人の経験や知見に依存するため「問い」から開始して「仮説設定」を導く流れも念頭に置きます。ただし、どちらのアプローチから始めるかは特に重要ではありません。あくまで、どの状況からも発想に揺さぶりを掛けられる検証サイクル で思考停滞の壁を突破することが重要です。

まずは「誰のどのような課題を解決するか」、対象を明確にしながら仮説を立てその先に潜む気づきを見出すことに集中します。ポイントは、初期に立てた仮説自体には固執せずに論点を拡げて探索することです。そして、対象に対する興味関心や課題解決への情熱が発想力の源泉 であることを留意しておきます。
仮説設定はあくまでアイデアの踏み台とし、固定概念や執着から解放し新たな気づきを探索する柔軟な観察眼の維持を心がける
思考の余白による発想の連鎖反応
仮説を基に観察を行う内にいくつかの新たな気づきに出会う事があります。その気づきに対して繰り返し自問を繰り返すことで論点をさらに精製します。
例えば、問いの切り口を抽象化することで新たな問いへと展開し新たに論点が生まれる切っ掛けを導きます。その際に初期仮説はあくまで問いを導く誘い水として活用して新たな問いに集中します。
なぜ問いの切り口を抽象化するかというと、抽象化による俯瞰視することでアイデア発展の余白を設けておくためです。初期の問いにおいては、「広げすぎずも制限しすぎない」状態で発想の連鎖反応を起こす可能性を残しておきます。
また思考プロセスを放射状に視覚化するマインドマップなどのツールを要いることでアイデア出しの効率化も期待が持てます。
具体的には、仮説をマインドマップの中心に据えてそこから放射状に関連情報を書き出し、新たな仮説を思いついたら次はそれを中心に新たに再考します。
マインドマップの利用メリットは、視覚的に初期の仮説を時系列に扱うことで、新たな気づきや発見に自然に集中しアイデアへの固執の回避と発散の両立が可能となる点
この「仮説設定」>「観察」>「問い」>「気づき」のプロセスはアート思考の場合では、ビジョンなどの創出にも役立ちます。またデザイン思考の場合には、解決すべき課題の柱として方向性を定めて観察と問いを繰り返しながら洞察を深めて創造へ繋げます。
質の高い「問い」は、新たな価値や斬新なソリューションを創造するためのサーチライトの役割となる