アート思考/デザイン思考で失敗しないための正しい問いの設定方法

イメージ画像|アート思考やデザイン思考における正しい問いのデザイン方法
良質な問いをデザインすることは、対話を活発化し新たな気づきの機会が拡がり跳ね上がるアイデアへと導く。

アート思考もデザイン思考も、プロセスの前半において「観察」からどの様な課題を解決するかという「問いの設定」までは概ね同じ流れになります。ここで質の高い問いを設定できるかで斬新で良質な解決策やアイデアが生み出せるかに影響します。川の上流が淀んでいれば出口の下流は更に濁った水質に成るのと同様に、開始時に良い問いを立てることが良きアイデアの創出に大きく影響します。今回はアート思考やデザイン思考を通して正しい問いを導き出すための具体的な問いのデザイン方法を整理していきます。

目次

「問いのデザイン」における意義

以前の記事で“アート思考とは ” でも解説したように、アート思考は自己対話を通して日常や社会へ新たな問いを立て価値創造を行うのに対して、デザイン思考は他者の潜在的な問題を発見し課題解決を行うことが目的となります。対象は異なるものの観察を通してどのような問題設定をすべきかを見据える行為は共通します。

問いの立て方によって、導かれるアイデアの方向性は変わっていきます。表層的な問題にのみ執着してしまうと本質に到達できずに予定調和で終えてしまうように、入口を狭めて方向性を見誤る可能性も出てきます。様々な角度で問いを立てることで対話が活発化し新たな探究の機会が生まれ、問いを介して認識を改めたり物事の関係性を再構築する切っ掛けにもなります。

別の視点から「問いを立てる」工夫

クライアントからプロジェクトに対する提案依頼を受ける際に、ビジネスにおける課題を確認すると良くあるのが「新規会員を増やすため」、「売上げを上げる」など漠然としたお題を頂くことが良くあります。クライアント側の担当者においてはそれが社内での目標設定でもあるので致し方ないのですが、斬新なアイデアを創出するためにはそのまま進めるのでなく、何がどういう点で問題かを更に問いを深め思考の領域を広げる必要があります。

つまり、論じるテーマ(お題)のまま進めるのでなくその原因の背景を掘り下げ、問いの領域や思考の軸に変化を持たせることも重要になります。事象をそのままテーマにして問いを立ててもその背景にある原因や要因が見えなくなり予定調和な答えしか見いだせないことがあります。ポイントは、視座を高めて大局的に事象を見て問いを掘り下げることで論点を研ぎ澄ますことです。

例えばスポーツジムで高齢者の新規会員の獲得を行うための企画立案の場合、健康を通して実現したいその先に思考の領域を広げてイメージを膨らませていきます。高齢者であればお孫さんと山歩きや食べ歩きなど自ら外出計画を楽しむことや会員同士のコミニケーションとしての場のスポーツジムのあり方など、問いの切り口を健康作りから生活の全体像より要素分解して様々な角度から考察することでアイデアに拡がりが生まれます。

単に「高齢者に楽しんで継続的に運動して貰うスポーツジムを考える」という表層のみに意識が向く問いのデザインでなく、「学びや運動から生涯を通したライフスタイルの提供」など場の創出からライフスタイルの再考へ問いの切り口の視座を高めて大局より新たな方向性に繋げて問いを深化させます良い問いを立てることは、視座を高めて対局観を持って論点を深めながらユニークなアイデアへ繋げることができます。

視点・視座・視野を説明したイラスト図:円錐を捉える視点の位置で見える形状は変化する
対象物は、視点の位置で見える形状が変容する。何処から見据えるかによって解釈が変わる。

気づきを導くための初期仮説

いきなりユーザーリサーチや観察を開始するのでなく、まずはたたき台となる仮説を基に疑問を繰り返し新たな気づきを誘発するための探索を進めます。仮説設定を行わずに漠然とした状況で観察活動を行っても観察の方向性も曖昧になり洞察を深める切っ掛けを見失ったり、ありきたりな問いから発展できないことがあります。

まずは問いを深めるために「誰のどのような課題を解決するか」主体を明確にし簡易的な仮説を用意してその先に潜む気づきを見出していくことに集中します。初期仮説の目的は仮説設定の考えに固執せずに踏み台とすることで、固定概念や執着から解放された気づきを探索することが重要な役割となります。

問いの切り口と抽象化

具体的な流れで見ていくと、仮説を基に観察を行う内にいくつかの新たな気づきが出てきます。その気づきに対して疑問を繰り返すことで真の問いの切り口を発見することがあります。その精製され深められていく問いの切り口は視座を高めて抽象化し新たな問いのデザインへと発展させます。この視座を高め抽象化することで課題の焦点に対する切り口の角度は鋭さを増していきます。

仮説はあくまで観察から新たな視点で問いを導く誘い水として活用し、新たな問いの方向性が現れたら過去のものとして新たな問いを中心に据えて進化の展開に集中します。具体的にはマインドマップなどで現在のアイデアを中心に据えた新たなシートで図式化し、視覚的に過去の仮説として気づきの発見に集中する工夫を施します。

なぜ抽象化するかというと視座を高めて俯瞰することでアイデア創出のための斬新で鋭い切り口となり得る余白を設けておくためです。良い問いとは、「広げすぎずも制限しすぎない」そしてアイデアを連鎖反応させる余白を維持しています。

この「仮説設定」>「観察」>「気づきの精製」>「取り組むべき問いを立てる」流れで、アート思考の場合は行動の指針となるビジョンなどの意味創出に至ります。デザイン思考においては、解決すべき課題の柱としての方向性が定まり更に観察を施して洞察を深めてソリューションの捻出に繋げます。質の高い問いが意味の再定義や新たな価値、そして斬新なソリューションをブレること無く導くサーチライトの役目となりまです。

アート思考とデザイン思考で「観察」から真の問いへ洗練する方法

純度の高い問題設定を精製するために

ここでは各思考法に基づいた問いの洗練する方法を整理していきます。アート思考とデザイン思考の最初の観察対象は、自己と他者に分かれます。共通事項は、固定概念に囚われない気持ちで観察しながら繰り返し問いただすことで論点を鍛錬し本質を抽出していきます。ポイントは初期の問いのままでは不明瞭であったり思い込みなどで一般的な視野しか見えてない場合が多く、問いを繰り返すことで洞察の純度を高められユニークで鋭い洞察にたどり着きます。

問いを深めるのに役立つ手法

問題改善型アプローチ|5Whys分析

トヨタ自動車が社内で実施している原因究明や改善分析の手法である「5 Whys分析(なぜなぜ分析)」があります。問題が起きたときに「なぜ?」を5回、繰り返して問うことで問題の本質を掘り下げていく手法です。5回も自問自答していくことで目の前の事象が深掘りされ、徐々に構造化された因果関係や問題の原因を追跡します。この手法を利用することで、表層に現れて居ない深い問題の本質へ掘り下げることが可能となりますが、5Whys分析の気をつけるべき点として、対象になる問題に具体性がない、個人の思い込みや事象を論点に据えないなどが挙げられます。

本来のなぜなぜ分析の目的は、現場で起きた問題の解決手段を導く分析手法です。あくまで起きた事象に集中し思い込みになる「推論」や「推察」を避けて原因やその構成となる要因を洗い出し整理して解決策を見出していきます。

デザイン思考においては問題解決の手法として利用可能ですが、アート思考の場合はあくまで創造的な問いを導く為に洞察を深める手段として「5Whys分析」を利用します。注意点は、繰り返す回数は気にせずに問いを繰り返して自問自答しながら問いの段階を深掘りさせていきます。

ポジティブ心理学アプローチ|アプリシエイティブインクワイアリー(AI問診法)

アプリシエイティブインクワイアリー(AI問診法)とは、関心や強みなどポジティブな側面に対し問いかけながら潜在的な可能性を探究し未来に向かう肯定的なイメージを共有し、変化に向かう力を養い成長プランを描く手法です。その役割を端的に言い表せば、「未来の可能性の解像度を高める」ことです。

このポジティブ心理学の手法は本来、人材開発や組織改革に主に活用されますが特にアート思考の場合、漠然とした初期の問いの入口となる快・不快となる切っ掛けの題材に対しこのポジティブ心理学の問診手法で問いの内容や輪郭を明確にするのに役立ちます。

ポイントは、ポジティブな感情で自身に対して内側から湧き上がる気持ちに呼びかけるようにして問いが先に進むような問題設定を意識します。

例:「自分にとってなぜ興味をひかれているのか、その根本の原因は何であるのだろうか?」「どのようにしたら更に自分はこの問いに対してワクワクしながら大きな学びが得られるか?」

アプリシエイティブインクワイアリーの問いかけの、4つのプロセス(4Dサイクル)。
STEP
Discovery|発見

関心事項の中心となる価値・強み(ポジティブコア)の探索 :「どのような点を最も面白いと感じているのか?」

STEP
Dream|望ましき未来の姿

そのアイデアにより未来がどう変化するか可能性の描写:「その価値が実現したら社会にどのような変化をもたらせるか」

STEP
Design|実現方法の設計

アイデア実施のための理想と現実を埋める作業:「どのような人材やチームが必要になるか」

STEP
Destiny|行動計画の策定

継続的に取り組むための実行計画を活動内容に落とし込む:「はじまりの一歩をどう行動したいか」

この手法のメリットは、内発的動機づけであり否定的な固定概念の枠組みから外れて、ありたい未来の姿に集中しチームの共有目標による実現意思を維持しながら能力を発揮する仕組みにあります。

思考法別の問いを立てるための準備の仕方

アート思考のための問題意識の貯え方

アート思考の本質は、自分なりの観点で答えを見出すプロセスです。いきなりアート思考を利用して新規ビジネスのビジョンを立ち上げようとしても、対象となる課題の見つけ方が分からないとの相談をよく受けます。常日頃から自分がどのような物事にこころが動くか自己モニタリングで振り返りつつ、それを言語化したメモのストックの準備をしておくことが役立ちます。

普段から何か引っかかる物事:「驚き」、「納得」、「不満」、「違和感」などの快・不快を意識しなぜそう感じるかを考えることが問いを立てる第一歩に成ります。

例えば日記やマインドマップなどに感じることを言語化して普段からメモ化してアイデアの種を貯めておきます。今ではスマホで音声メモやそれをテキストのメモとして自動で文字起こしするアプリなど手軽に記録を残せる手段もあります。更に文字に起こして視覚化しておくことで後に見返して新たな気づきを得る効果も期待できます。

またアート思考のセミナーなどでは、多用な視点や他人の視点を理解するためにデッサンを実技として行うことや美術鑑賞で自己対話による感性を刺激することも推奨されてきました。デッサンを行うことに抵抗や美術館へ足を運ぶ時間が無い方などは、上述のような自己対話を目的とした日記やメモ作成でも自己モニタリングで観察力を養い「アイデアの種」としてテーマを手軽に貯めておける方法をお奨めします。ちなみに個人では、ヨガを通して自分の身体や心の状態に向き合うトレーニングを通して俯瞰して自分を理解することで自己モニタリング力を養ってもいます。

デザイン思考で洞察を深めるまめの技術とトレーニング

デザイン思考においては、普段より世の中の動向や流行を見聞きした際に何故、流行っているのかを推測したり別の市場と共通事項は無いか、類推する癖を持っていると自然に知識を繋げて増やせる「知識の連鎖ストック」が出来きて観察時に洞察を深めることに活用できます。

観察力を高めるトレーニング方法では、ワークショップのアイスブレークで活用される初対面のメンバーの休日をどう過ごしているかを想像して発表する方法があります。これは初対面の方に対して持ち物や雰囲気など視覚を中心に想像を高める簡単な方法です。ポイントは限られた情報において行間をつなぎ想像を膨らませて行けるか、想像や妄想を駆使してストーリー化させることです。

またプレゼントを選ぶ行為もひとに悦んで貰えるモノを選ぶ過程は、分析能力や他人への共感力を必要とするため観察力を高める効果を期待できます。ここでのポイントは欲しがっているモノや自分があげたいモノで無く、相手が意識してはいないが貰って悦ぶモノを選ぶことです。また一般的なプレゼント:女性へ花束やケーキなどイメージし易いモノでなく、その個人が潜在的に求めるモノを考えて選ぶことも難易度も上がりますが観察力や共感力を研ぎ澄ます訓練に有効です。例えばオーガニック食材に意識の高いひとに、エコバックや天然蜜から作ったアロマキャンドルなど、類推力を活かし関連性を紡いで選択肢を増やし洞察を深めていく工夫などは実践的な訓練になります。

観 察アート思考デザイン思考
対 象自己モニタリングで内側から感じる日常や世の中ユーザー(他者)の課題
目 的見落としがちな違和感・当たり前へ疑問を抱く無意識下に存在する感情を読み解く
準 備日頃から世の中に対する疑問や違和感を言語化する類推(例え)を実行する癖とそれを支える幅広い知識の備蓄
アート思考とデザイン思考の「観察」から問いを精錬する際の違いと共通事項

まとめ

アート思考やデザイン思考のアプローチや心構えを学んでも、ビジネスの現場で実践してみても期待していた斬新なアイデアが得られなかったという感想を耳にします。具体的な話しを聴いてみると多くの場合は初期の問いを立てる内容が限定し過ぎたり、ありきたりな問いの設定で終わりアイデアが期待するほど跳ね上がらない結果になってしまったと考えられます。

繰り返しになりますが、どんな方法や思考技術を用いても洞察力が浅く問いのデザインの切り口が鈍い状態ではそこから生まれてくるアイデアはそれ以上に斬新なものを生み出すことは出来ません。問いの立て方次第でプロジェクトの成功が掛かっていると言っても過言ではありません。

問いのデザインを的確かつ、斬新な切り口を見いだせるかでその後のアイデア形成に影響が出てくることを意識しておくことが大切です。そのためにも日頃から自己モニタリングや類推トレーニングなども意識しておくだけでも良い結果へと導けると考えます。また問いを立ててそれに関わる情報収集し事実や意見を網羅して問題点を構造化し、論点を整理する流れが身に付くと深く良い問いを立てる角度も高まります。

まとめ:失敗しない正しい問いをデザインするとは
  • 与えられたテーマと論点は別に捉えて問いをたてる
  • 初期仮説から視座を高めながら問いを繰り返して抽象化しながら思考を跳ね上がらせる余白を持たせる
  • アート思考では観察テーマを普段より意識して言語化することで繰り返し洞察を深められるアイデアの種を貯える
  • デザイン思考では類推思考を意識して知識の連鎖ストックや創造や妄想を駆使したストーリー化で洞察力を深める
  • 洞察力が浅く問いの切り口が鈍い状態ではそこから生まれてくるアイデアはそれ以上に斬新なものには成らない

参照文献:

イメージ画像|アート思考やデザイン思考における正しい問いのデザイン方法

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