提案スタイルごとの攻略と共通点
2種の提案様式
「1.自主プレゼン」と「2.競合プレゼン(コンペ提案)」
社外向けの提案には主に2種類あり、自分たちの自主プレゼン(自主的な提案活動)と依頼されて提案する競合プレゼン(コンペ提案)があります。
この自主プレゼンと競合プレゼンの場合では、受け手側の期待が異なります。例えるならば、片思いで相手に告白して振り向いて貰う行為が自主プレゼン(以下、自主プレ)です。
当然、自主プレは成約や受注のクロージング期間も時間を要し難易度も高くなります。まずは、共通した留意点から解説していきます。
共通の留意点
1シート、1メッセージの表記ルール
紙面構成においては文字情報を詰めすぎないことを前述しました。1シートに伝えるポイントやメッセージは、1点程に絞ります。
また論拠となる事実:調査数値やグラフなどの第三者の参照元となる詳細データを添付する場合は提案書の最後に参照資料(Appendix:アペンディクス)とする構成でメインの提案内容の流れを邪魔しないストーリラインの構成を意識します。
「隠れた前提条件」の把握
初動の情報収集においてクライアント側のRFP(Request For Presentation:提案依頼書)の課題を鵜呑みにせず、「隠れた前提条件」が無いか背景にある文脈を読み取る観察力と洞察力を働かせる必要があります。
クライアント側は、自社の提供している商品やサービスに関しては専門知識を有していますが制作や開発においては必ずしも深い知見が有るわけではありません。要望に対してクライアント側の死角となるような注意点や留意事項は「隠れた前提条件」として提案に盛り込むことで提案側の専門性や信頼を訴求できます。
また、コンペ型式の場合は、公平性を重視するコンプライアンスの観点からオリエンテーションの合同説明会やその後の質疑応答の一括回答などで独自のヒアリングで情報を入手しづらいこともあります。
その様なときは問題レベルを担当者、上司、更に所属部署、そして組織単位などの視座や視点で分割して考えることで隠れた課題 が見えることがあります。この問題レベルを分割して検討する方法は、新たな視点でアイデアを深められます。
クライアント側の問題設定は、時に表層的で漠然としていることがあります。(売上げや新規リード獲得など)。このような場合は、担当の所属部署と現場や決裁者の多様な視点で問題を再考することでより深い洞察を浮き上がらせます。
1.自主プレゼン(自主プレ)提案のポイント
プレゼンの心構え
自主プレゼン(自主プレ)では、前述したように、単なるサービスやプロダクトの説明を投げかけて、相手にYES/NOの二者択一を求めるクローズド・クエスチョンの流れになりがちです。
初期段階のアプローチでは、継続して商機を拡げていくことが一番の目的です。まずは、クライアント側が抱く真の問題や課題を探る一回目の提案を行います。相手の潜在的な課題を掘り起こすための傾聴する意識が必要です。
また、初めてのクライアントの情報収集における時間のかけ方と推論を活用する状況が既存顧客とは大きく異なります。過去の経験から、どのようなプレゼンでも初動の情報精査は、勝敗の6〜7割を左右する重要な要素です。ここでは、新規顧客に対する自主プレをケースに提案活動の流れを観ていきます。
傾聴(ヒアリング)から相手の興味関心を引き出す
新規の潜在顧客と打ち合わせをする場合、説明を受ける側の視点では何か得るものがない限り2度目の打ち合わせに臨んで貰える可能性は低くなります。まず、相手の抱える問題や課題を引き出すヒアリングを行い次に繋げる糸口を見出す傾聴に集中します。
例えば、事前に業界に関する情報収集を行い業界全体の課題を把握しそれに関する最新の海外事例などを集めて話題のストックを準備しておきます。情報範囲も直接に関わる業界から経済連鎖が及ぶ広域な経済圏まで目配せし、担当者の専門領域:マーケティングやITなどの所属する直接の部門から関連部門までの複数の視点で情報を準備します。
特に海外の最新トピックスなどは担当者も知らない可能性があり、興味を持って聴いてもらいやすい情報の一つです。英文ニュースも、今では無料の機械翻訳サービスの翻訳の精度も改善され文章内容の把握レベルとしては実用レベルに到達しつつあります。
自社の宣伝(サービス内容)を全面に推すだけでなく相手に役立つ情報を提供して信頼を導く心理的な常態を生み出す配慮も必要
情報提供で関係を継続させる「ソリューション&リレーション」
初回のヒアリングで引き出せたトピックスに合わせて、関連する自社サービスのソリューションを次回の提案に繋げることを検討します。特に提案できる関連サービスなどが無い場合も諦めずに、前述したような無償で提供できる参考情報も継続して収集し提供していきます。
例えば、市場の調査データなどもネット検索することで無料で入手が可能です。担当者が多忙な場合、この手の情報は先方の社内資料の作成に役立つ場合もあり意外と重宝されます。また、自社で営業販促費が使えれば低予算でネットリサーチを活用した独自調査のユーザーアンケートも提供することができます。
リレーション構築のポイント
初回は自然に振る舞い、次に期待感を持たせる位の距離感で次回の約束を取り付けることを意識して、継続した営業活動を取り付けます。
初回の訪問は、ある意味、肩の力を抜きつつ期待感を植え付けます。2回目以降で具体的な提案ができるよう信頼関係の構築に集中します。そこで重要なのは、相手の抱える問題を探る観察力です。
その他の留意点
飛び込み営業などでは手短な挨拶で名刺交換をすることが初歩の行為になりますが、その後のフォローをメールを中心に、相手との距離感を細心の意識を払いながら期待を高める方法を検討します。
前述の役立つ情報提供やウェビナー開催のお知らせなど、相手の行動を誘引するようなトピックスの仕込みと提供活動が自主プレ期間の主な活動内容です。
飛び込み営業でなくとも、相手の課題をくみ取れるヒアリング能力は、特に提案活動においては最重要な能力です。また、相手に何が本当に必要な情報かを探りながら、徐々に相手との距離感を詰めて信頼関係の基盤を築くことが当面の営業課題です。
2.競合プレゼン(コンペ)提案のポイント
提案書の作成準備
コンペ提案に参加する場合、既存顧客からの引き合いか初見の会社から依頼される場合が想定されます。いずれの場合も、クライアントの要件(要望)を適切に把握し理解を深める情報収集から始めます。
クライアント側で事前に解決したい問題や課題設定を、施策の前提条件として背景から目的などのビジネス要件やビジネスフローに合わせた機能要件などを整理しているRFP(Request For Presentation:提案依頼書)として書面にまとめている場合があります。
状況によっていは、クライアントの担当者が書面でなく口頭で伝達する場合もあります。この口頭伝達の場合は、ヒアリングを丁寧に行い相手側の課題を深く掘り下げる(洞察する)必要があります。何故なら、口頭伝達の内容がクライアントとの関係性によって解像度が異なる場合もあるからです。
競合プレゼンの場合は、複数企業に提案依頼をしているが故、課題の解釈から他社と異なる視点の提案が受注の鍵となる。
提案書の構成例(競合プレゼン)
- 要件整理と提案の方向性(戦略)の確認
- 提案内容のコンセプト解説(提案内容に対する理由)
- 施策の説明(現状分析から各ポイントの解説と論拠となる事実を盛り込む)
- 簡易スケジュール
- 体制と役割
- 会社の実績と案内
オリエンのRFPで要求されている情報は漏れなく提出します。(システム構成図や業務フロー案など )よくある失注パターンは、要求された提出項目の抜け漏れが原因になる場合があります。
まずは、提案の必須項目を一覧表にします。また、提案における注意事項や特記事項も明記し受注後に齟齬が起きないようにしておきます。(例:納品物の一覧や制作物の画像の利用権利の明示など)
資料のはじめには、相手の要求事項を理解し提案が方向性に沿っていることを示すための、提案のコンセプトとなるキーワードを提示して閲覧者の記憶に企画の特徴を刷り込む工夫を施します。
その後に具体的な施策内容の説明を論拠も合わせて掲載し、最後に実施計画などを提示してプロジェクトが実際に動き出した時をイメージできる流れを構成します。
提案書の基本の体裁は、結論(提案)を先に掲げてその理由を現状分析を施しつつ論拠となる事実やデータで補い説得力を高めます。最後に実績の事例紹介で自社の信頼性に対する期待を高めて納得感を獲得する流れです。
提案書が20ページ以上を超えるボリュームでは、5ページ程のエグゼクティブサマリー(要約版)を準備します。理由は、社内回覧する時に要約版と完全版を設けておくことで時間の無い管理職や役員が要約版で提案内容を把握出来るようにする配慮です。
まとめ
ストーリー構成で納得感を導く
プリセールスの提案活動は、まずは相手を惹きつけ記憶に残る提案書の工夫が特にコンペ提案などで重要です。また、企画書や提案書は「読み物」や「論文」ではありません。文字ばかりの紙面では、相手に集中して理解を促すことを妨げます。
また、相手目線の表現で論理的な構成を施すことで説得力ではない納得感の醸成を目指します。そういう意味では、自主プレや競合プレゼンの提案であれ、相手の潜在的な課題を把握し期待を少しでも上回る提案ができれば先方の意志決定を導き受注に繋げられます。
今回は、プリセールスにおける提案書の書き方の基本テクニックと留意点をまとめてきました。次回は、口頭のプレゼンテーション基本テクニック について解説します。
- 相手の隠れた期待を察する洞察力と相手目線のコミュニケーションが受け入れて貰うための鍵となる
- 提案書は、読ませるためではなく深層心理に訴えかける資料(=信書)である
- 稟議システムで承認を得るために、提案書は社内を一人歩きする場合を考慮して簡素で分かりやすい表現を意識
- 紙面レイアウトは、情報を理解し選択してもらうため記憶に残り興味を抱かせる魅せる工夫を施す
- 構成は結論(提案)を先に掲げて、その理由を現状分析を施しつつ論拠となる事実やデータで補い説得力を高め、最後に実績の事例紹介で自社の信頼性に対する期待を高めて納得感を醸す
- 自主プレの初回は、次回に繋げる意識で臨み観察力を働かせ2回目以降で掘り下げた提案ができるよう課題を探る
参考文献
- 酒井 穣「新版これからの思考の教科書」 光文社 2013年
- 福田 康隆「The Model」 翔泳社 2019年
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