選ばれる提案書・企画書の基本構成|コンペ提案の勝利の方程式 Pt.2

イメージ画像|プリセールスにおける提案書の実践テクニックを公開します。
ビジネスで勝つための提案書で重要な構成や基本テクニックとは?

ビジネスの提案書・企画書は、単なるアイデアや商品・サービスの紹介資料ではありません。例えるなら、受け手の課題解決に沿った「処方箋」であり、事実を基に信頼を得て意見に納得してもらう「信書*」でもあります。  *特定の受取人に対し差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書を指します

受注など特定の行動を促す提案のロジックを構築するには、あるべき企画書の基本構成や要点を理解することが必要不可欠になります。

今回は、プリセールスなどの「社外向け提案活動」で採択されるための提案書・企画書の基本の構成を解説していきます。キーワードは、相手の目線で紡ぐ「記憶に残るストーリー展開」です。

目次

提案書の本質

「説得」でなく「納得」を導く

社内における提案書では、上司や組織に対して改善や要望を聞き入れて貰うための提案では、組織内における事前の根回しなどの事前のコミュニケーション活動も重要な成功要因となります。

社外向けの営業活動における提案の場合、顔の見えない最終承認者の存在などもあり、どんなに素晴らしい提案内容であっても受け手側の関心や期待に見合ってなければ意味をなしません。

ましてや、一方的に自社のメリットを謳うだけでは説得されているように、感じ聴き手が引いてしまうこともしばし起きます。そうならない為には、相手の課題の本質に気づきを与えその解決策に「納得してもらう」活動を目指します。

酒井 穣氏の著者「新版これからの思考の教科書の書籍で、提案活動を以下のように表現しています。

伝えたい結論(=提案)が複数の理由の柱に支えられ、かつ、事実という盤石な土台の上にそびえ立つ建築である”

提案(結論)から詳細(理由>根拠)に移行する展開を表す論理ピラミッドのイラスト
提案書の構成を論理的ピラミッド構造で示すイラスト

まずは、相手に受け入れて貰うための理由と根拠(=事実を土台とした信頼を醸成する構造)を理論ピラミッドに整理して、提案内容に相手側のメリットと重なる部分をどの様に導き出せるかを思索します。

そのためには、期待を読み説く観察力や相手目線のコミュニケーションが鍵になります。※「相手目線のコミュニケーション」は次項の” 提案書の作成時の留意点 “>相手の「自分ごと」として伝わる言葉を選ぶの項目で詳細を解説します。

提案と期待値の角度を合わせる

次に、クライアント側の担当者が抱える解決すべき課題とその妨げにとなる問題点を洗い出します。そこから、処方すべき「対策と恩恵」が提案に漏れなく含まれているかを確認します。

提案内容と相手の期待に乖離なく利害一致を生みだせているかを確認するために、「バリュープロポジションキャンパス」などのフレームワークを利用して提案のギャップがないか視覚化して整理する方法があります。

提供価値(バリュープロポジション)と対象者の恩恵(ターゲットプロファイル)が利害一致して適切な価値創造が成る
出典:アレックス・オスターワルダー著『バリュー・プロポジション・デザイン(2015)翔泳社

※「バリュープロポジションキャンパス」の活用方法の詳細は、以下の記事を参照。

営業活動でまず把握すべき情報

商談の4ステージ

まずは、実際の提案に入る前のプレ提案となる商談ステージを整理していきます。プリセールスにおける商談の4ステージ:「不信」、「不要」、「不適」、「不急」 を理解した上で商談段階のどのステージに居るかを確認することから始めます。

商談ステージ確認すべき事項自問すべき問い
1. 不信信頼関係を構築(初期段階)自社の理解と信頼が芽生えているか?
2. 不要課題の把握相手の課題を的確に理解しているか?
3. 不適課題に適したアプローチ(提案)提案と課題の方向性は合っているか?
4. 不急実行時期課題解決の検討が既に施されているか?
参照元:福田 康隆「The Model翔泳社 2019年

特にはじめての客先訪問の場合では、この商談4ステージを解決した状態で本提案を実施することが理想です。自社を理解されている場合(「不信」ステージ)では、相手にヒアリングを施して課題(「不要」ステージ)を理解した上で提案機会へ繋げていきます。

さらに、提案内容の適正とギャップ(「不適」ステージ)や相手側の提案に対する受け入れ時期の確認(「不急」ステージ)を施して受注までの商談クロージングの角度を高めていきます。

また、初回の営業訪問(プレ提案)では、ステージ1:「不信」における自社紹介を兼ね実績や自社サービスを紹介しながら課題のヒアリング、担当者の抱く課題に対する方向性や解決に対する熱量(緊急性)をヒアリングで確認した上で本提案へ繋げる糸口を探索します。

自主提案の場合、ステージ4:「不急」におけるクライアント側の緊急性における意向を的確に把握が出来ていないと、無駄に社内リソースを提案活動に費やし商談化が進まず営業効率の足かせになる要因にもなるので今後の対応には検討が必要。

提案書作成における留意点

ビジネスにおける提案活動の基本能力として、口頭による伝達力(プレゼンテーション)と提案書の作成(ドキュメンテーション)の2種の技術が必要となります。

今回は提案書作成における基本の構成を中心に実践テクニック、そして、留意点を解説していきます。

※口頭による伝達力(プレゼンテーション)の基本テクニックは、以下の記事を参照。

組織カルチャーへ配慮

「目に見えない決済者」と「稟議システム」

提案書として書類化する一つの理由は、上長や組織で承認してもらう稟議システムの存在が考えられます。特に日本国内の組織の場合、担当者は提案書を社内に回覧し稟議申請で上長など社内の決裁者の承認が必要なため、時としてプレゼン資料は組織内を一人歩きします

それは直接、口頭で説明や補足が施せない人たちに対して適切な表現や論理的な構成でない資料では承認しづらく提案が見送られる可能性が出ます。

提案資料を5ページ程にまとめた、エグゼクティブサマリー(要約版)や提案資料の最後に用語集などを設けるなどの配慮も必要になります。

また、大きな組織では上司を気使い担当者が勝手に企画提案を進めているという誤解を避けるため、最初の上司に相談する段階では「提案書」という名称を付けずに「討議書」に書類タイトルを変更するように言われるケースも筆者の過去の経験でありました。

担当者に指摘される前に自らタイトルの変更を打診する配慮は相手からの信頼を獲得するテクニックにもなります。

ポイント

提案時には、その場に参加していない”目に見えない決裁者“も意識して専門用語に頼らない分かりやすい表現と論理的な情報構成も意識する。

相手の「自分ごと」として伝わる表現

プレゼンの提案書は、受け入れて貰う相手の目線に合わせて「自分ごと」とした内容で理解されやすい表現を心がけて文章を作成していきます。まず配慮すべき点は、昨今のデジタル関連などでよく見かける専門用語や英語の略語を多用した資料です。

全てを日本語で綴るのは無理があるため、資料作成時にはページ内に注釈を入れるか用語一覧を巻末のAppendix(付録)として添付する配慮も重要です。なぜなら最終の決裁者が必ずしもプレゼン当日に参加するとは限らないからです。

例とえば、DX(デジタルトランスフォーメーション)などのビジネス用語として一般に使用されていても「組織の仕組みや機能をデジタル化へ移行するDX(デジタルトランスフォーメーション)において…」などのように最初は意味を補足する修飾語や略語の正式名称と併記するなどの気遣いも重要です。

「それぐらい、今どきのビジネスパーソンが知らないことは無いのでは…」と思う方もいるかもしれません。しかし、IT業界では新たな用語が現れる速度も速いため誰もが理解できるよう配慮は必要です。

また、略語や外来語などは業界によって異なる意味を持つ同音異義語が存在し誤解を招く場合があります。さらに、専門用語に注釈を付けたり簡易的な用語解説を付記する細やかな配慮がある事を印象付けることで、今後の信頼関係に対する期待を受け手側に刷り込む狙いもあります。

提案活動とは、信頼による良好な関係構築の行為でもある。

理解を促す情報配置と展開

読みやすい情報配置となる「レイアウト」

研究論文の様な、紙面一杯に文字が埋め尽くされて余白の少ない資料は読みづらいだけでなく、読む気力をも無くさせます。提案の場合は、聴き手となる商談相手はあなたの資料に必ずしも興味を持った姿勢で臨んでるとは限りません。

プレゼンの提案書では、文字量が多い書面は情報が多くなり集中を遠ざける心理を生み出してしまいます。その場合、紙面にリズムを生み出して自然に何処を見れば良いかわかるようにタイトルと本文の文字の大きさやウェイトに変化を持たせ視線の誘導を意識したレイアウトを心がけます。

プレゼンの提案書は、読んでもらう資料というよりも情報を正しく理解し選択してもらい、かつ、記憶に残る印象を残す「魅せる」工夫も重要です。

そのために、余白を有効活用しメリハリを持たせた紙面構成(レイアウト)で情報を詰め込み過ぎず明瞭かつシンプルに提案内容に惹きつけることがポイントです。

つまり、ビジネスでも必要最低限のレイアウトに関するデザイン原則であるデザインリテラシーとは、デザイナーでなくともビジネスコミュニケーションおいて重要な武器にもなりえます。

余白を活かしたレイアウトの原則イラスト。
可読性を妨げる文字の詰め込みすぎを防ぐために余白で情報を区分けするイラスト例
コントラストの原則イラスト。「コントラスト」の役割は、情報に視覚的なメリハリと優位構造を表し視線の誘導を自然に行う。
強弱で紙面にリズムを設けて自然な視線誘導を行うイラスト例

このような伝えるためのレイアウトの原則も把握し、情報の視認性と可読性を意識した見やすい資料作成を心がけて提案を受け入れて貰うための信頼構築の基盤を施します。

単なる表層の装飾に凝るデザインという意味ではなく、理解を促進する伝達手法として、さらに、印象を深め相手の深層心理に訴えかける資料。

コミュニケーション手段としての「色使い」

ビジネス資料の作成においても、色は印象を大きく左右します。論文のように白黒で図版も少ない資料では、最後まで集中してもらえる期待はできません。

ビジネス資料の色使いでは、基本は信頼構築や理解促進を目的にするため色数は最小限に抑えて可読性に意識を向けます。例えば、1.ベースカラー、2.キーカラー、3.アクセントカラー3色構成など基本ルールを設けて、読みやすさや飽きさせない印象を残せます。

※色とイメージの相関関係においては、以下の記事に一般向け向け用に資料作成の実践方法を記載

論理的ストーリーラインの展開と根拠

提案内容が相手の期待に沿うための準備

勿論、どんなに見た目を整えても相手側の抱える問題や課題に沿った提案内容でなければ、単なる押し売りに成ります。それを避ける為には、最低限、顧客の業界調査やホームページなどを事前に確認します。

さらに、提案を受け入れて貰うには論理的かつ客観的な理由を設けて企画を提案する必要があります。論拠となる事実と課題と提案の因果関係が適切か、抜け漏れを含めてロジック構成を確認します。

留意点として、ロジカルシンキングでは事象に対して、誰もが同様の結論を導ける特性があります。そのため、差別化を持たせるために提案のストーリラインに複数の腹落ちする独自の理由を設けて最終的に選出されるように提案内容を補強します。

また、納得感に欠ける失敗例として、提案の結論が先入観や推測で語られている曖昧な資料を見かけます。例えば、「多くの○○で利用されている×××」などの表現は事実となる根拠(=数値)が的確に明示されていない場合、何を持って多いか少ないかの基準が不明瞭な表現は避けます。

受け手側に誤解の余地や疑問を抱かせない文章の構成を心がけます。さらに、重要な言葉や表現の定義を最初に提示しておくことで、後の誤解を回避する配慮になります。

提案活動では、事実を基に複数の理由で支えられたストーリーで構成します。事実が曖昧で推測など、因果関係が成立しない非論理的な構成では納得感は生み出せません。さらに、相手の目線に合わせたストーリーでない場合、自分ごと化が出来ずに合意形成を逃してしまいます。

次項では、具体的な資料作成の例やポイントを解説していきます。

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