「UXデザイン」の理解を深めるヒント

目次

UXデザインにおけるUI/UXの関係

デジタルトランスフォメーション(DX)の導入では、ユーザー体験(UX)や操作性(UI)のデザイン(=設計)がプロジェクトの成否を握る鍵とも言えます。

操作性(UI)やユーザー体験(UX)の設計がしっかり練られていないと、どのようなテクノロジーを活用しても利用促進が進まずユーザーの目的が達成されません。結果、満足度は高まらずにDX導入が定着せずに廃れる状態に陥ります。まずは、そのUIやUXの役割を整理していきます。

UXデザインの全体像

UI(User Interface)UX(User Experience)の関係を理解する上で、UXデザインの全体像から見ていきます。

UXは人間中心設計の思想を軸に、そこからユーザービリティを評価軸としてユーザーの目的達成を支える具体的な設計をUIが担う相関図。

UXは状況により、CX(Customer Experience:顧客体験 )と言われることがあります。今回はUXに言葉を統一して解説していきます。

UXデザインを一言で言えば、「経験価値の戦略的設計」と本稿では定義します。その原理原則となる思想が前述した「人間中心設計HCD」です。

そこから派生した使い易さの基準となる「ユーザービリティ指標」や情報設計 (IA : Information Architect)などを基に操作性でストレスのなくユーザーの目的を達成できる「視覚化された仕組み」がUIデザインになります。

デザインシステムの概要

UXデザインは対象者の心理的な理解を基幹とした全体概念として「デザイン原則」となる戦略を策定します。その戦略を具現化した画面デザインやパーツ群となるUIデザインの色、形状、サイズなどの利用ガイドとなる「スタイルガイド」やパーツの個別設計、そのコンポーネント(=デザインパーツ群)など共有ライブラリ化した「コンポーネントライブラリ」の3要素を合わせて「デザインシステム」として運用に役立てます。

デザインシステムの導入メリットでは、統一感の維持や品質の安定、効率化、工期短縮やコスト削減などが挙げられます。

スクロールできます
要素役割
デザイン原則デザインの基盤となる考え方や方針(=UX)プロダクトやブランドと一貫性を保つ指標となる概念
スタイルガイド色やサイズなど具体的なデザインガイド(=UI)ブランド表現を視覚化した詳細な使用方法やQ&A
コンポーネントライブラリデザインパーツなどの共有ライブラリ(=UI)再利用可能なデザインパーツの一覧
デザインシステムの3つの構成要素

いかなるサービスやプロダクトであれ、利用する側の心理を読み解き提供すべき経験価値が適切でなければビジネスの継続が困難になる可能性が高まります。

次に、UXデザインが事業開発においてどのような役割を担うかを確認していきます。

事業開発における役割

新サービスや商品開発において、もしくは、新規事業に立ち上げにおいて、従来はサービス内容や商品の競合優位性や機能面を中心にBusiness側(採算性・理念)とSystem側(実現性・生産)を中心に開発が進んでいました。

事業開発における、ビジネス、サービス、システムの3構造とサービスにおけるUXデザインがその他を結びつける翻訳の役割を表す図版。

経験価値と体験設計の重要性

現在は、モノや情報の氾濫やテクノロジーの普及により模倣される速度も速まり、サービス需要のライフサイクルが短命化する傾向があります。

リーダー企業などが他社の追随を押さえるためには、スペック重視だけでなくユーザーやカスタマーが継続して利用を続けることで優位性を確保するための感情を揺さぶる情動的共感を醸成する経験価値体験設計のデザインが必要不可欠となりました。

先進企業の取り組み事例

スターバックスは、薫り豊かな焙煎コーヒーと共に”心地よい居場所”(=Third place)を提供を掲げて、店舗設計からブランドの世界観を統一してきました。コロナ後の米国では、ドライブスルーやテイクアウト型の店舗業態にも展開しています。(2022年8月現在)

無印良品は、主立った嗜好性の排除で非ブランド化の”素地”を楽しむ “あらゆる人々の思いを受け入れられる究極の自在性 ”で普遍的なスタイルや企業理念が生活者に受け入れられて発展してきました。

Service側のUXデザインとは、Business側とSystem側を繋げ双方の橋渡しとなる機能や翻訳の役割として事業開発の方向性や足並みを揃えさせて最終的な提供価値を創出する。

提供価値とデザインの位置

次に、事業開発における提供価値の観点からデザインの位置づけをみていきます。過去の記事でアート思考とデザイン思考の関係性を説明した中で使用したScienceEnginineeringDesingArtの4事象から総合的価値の枠組みとなる「SEDAモデル」でデザインの役割を再考していきます。

Science, Engineering,Design, Artの4事象で提供すべき統合的価値を表す「SEDAモデル」の図
モノづくりは、機能的価値と意味的価値の両側面のバランスが必要

サイエンスエンジニアリング は、研究・開発のR&D(Research & Development)としての役割でモノ作りの基幹部分にあたります。

しかし、現在の日本のモノづくりが機能面の差別化に傾倒し続けてき結果、グローバルの競争力で後退してきた要因でもありました。

デザインのヒトの理解を通して深い共感に結びつける「視覚化された仕組み」や、アートの哲学的な思想背景と共に意味的価値を付加しなければ前述したようにテクノロジーの汎用化と模倣の速度による技術の短命化でレッドオーシャン市場となり競争優位性はいずれ失われます。

逆に、意味的価値を備えたサービス(プロダクト)は、独自のブルーオーシャン市場を創り自分たちの独断場で他の追随を許さないポジションを勝ち取ることも可能となります。

また、デザインとはエンジニアリングの関係性は、両輪として主に既存の問題の改善や解決を担う役割を有します。それに対してサイエンスアートは、情動的な主観と論理的な客観性の関係から新たな価値や問いを生み出すイノベーション開発などに力を発揮すると言えます。

ハード面だけでないソフト面で競争力あるモノづくり(=サービス開発)は、デザインがヒトを中心に据えた理解で提供価値を深める役割を持つ。

デザイナーの類型と組織活用

最後に、職種としてデザイナーの主な特徴を理解して経営側との円滑な意思疎通や適切なチーム構築に役立つ組織活用のヒントを解説していきます。

4のデザイナータイプとその特徴

タイプ特徴役割
A.サイエンティストデータやテクノロジーも活用して創造的に問題解決を図る問題解決のコンサルタント
B.マネージメント型チームをまとめ上げるリーダープロジェクトマネージャー
C.クラフトマン型職人的に意匠デザインのスキルを極めるアートディレクター
D.探検家型多様なメディアに好奇心で取り組むクリエイティブプランナー
4つのデザイナーの特徴と例

デザイン・キャリアパスの方向

C.クラフトマン型→B.マネージメント型

スタートは、アカデミーなどの教育機関で、クラフトマン型として基本の専門知識を学びます。社会に出てスペシャリストとしてキャリアを積み上げて、年数と共にマネージメントの職域に向かう一般的な方向性があります。それは、現場志向でありながら専門チームやプロジェクトまとめる能力を持つプロジェクトマネージャータイプと言えます。

C.クラフトマン型→D.探検家型

探検型のデザイナーは、自身のフィールドを特定分野に限定することなく好奇心と探究心でさまざまなデザインに挑戦するタイプです。特にデジタル分野では、平面構成のみならず動画編集やアニメーション制作、サウンドデザインなど多様な表現を行える環境を誰もが手に入れられる時代背景も影響しています。デジタルマーケティングやキャンペーンなどの企画立案にも積極的に参加するクリエイティブプランナーです。

D.探検家型→A.サイエンティスト型

A.サイエンティスト型は、キャンペーンのプランニングやデジタルマーケティングを遂行する内にKPI(業績評価指標)や最終目標となるKGI(目標達成指標)の指標設定やモニタリングも行い仮説検証を繰り返してプロジェクトの向上を見据える、問題解決のコンサルタントとも言えます。このタイプはUXデザイナーなどにも向いています。

デザインの組織活用

この4事象は、優劣を表している訳ではなく専門性を持ちつつ自身の価値を水平や垂直に伸ばしていくキャリアの傾向を捉えたマトリックになります。

組織の規模によっては、年次が進むと部署を横断する経験を積み上げます。デザイン専門の組織に在籍する場合は、クラフトマン型として専門性を磨く研究職タイプのデザイナーも存在します。特にデジタル分野におけるデザイナーの役割は、技術や経営までの広範囲な知識が必要となります。

どのような役割をデザイナーに期待するかを見据えることで、意思疎通やミスマッチなどを軽減させて共創によるユニークな価値構築を実現します。

一方で、一般職でも創造性を発揮する思考をビジネスや経営に取り入れる風潮があります。この知見を「デザインリテラシー」と言われ、ノンデザイナーがデザインの概念を理解してデザイナーとの共創でビジネスに役立てる流れがAppleやgoogleなど海外企業を中心に増してきました。

国内でも、経営層とデザイナーが共創しながら差別化となる価値を創出するデザイン経営という考えを2018年に経産省が公表して以来、Panasonicや三井住友銀行など業種に関わらずにデザイン経営を実践しています。

まとめ

UXデザインの組織的実践に向けて

全員参加型プロジェクトの重要性

デザインに限らず、私たちは知らずに固定概念に縛られて物事を判断する傾向があります。デザイナーも多様な人材が存在することを解説してきました。

特に、UXデザインは心理学や行動経済学なども包括した仕組み作りが必要になります。何故なら、ユーザー体験とは信頼関係と共感を醸成するための適切な「経験価値」を提供するためにあるからです。

どのような先端テクノロジーの活用やソフトウェアや新規事業の開発においても、誰のどのような課題解決のための適切な経験価値を提供する仕掛けを組み入れなければ、「仏造って魂入れず」でプロジェクトは失敗に陥ります。

また、広義の意味合いとして問題解決のデザインは、誰もが当事者となりデザインプロセスに関与して一貫した仕組み作りに組織全体で取り組むことで解決すべき問題設定と解決が実践されると考えます。

デザインの本質とUI/UXの実践ポイント
  • デザインとは、狭義では装飾やスタイル、広義では設計や問題解決という意味を持つ
  • 優れたデザインには、よく練られた視覚化された仕掛け仕組みが備わる
  • UXとは全体戦略であり、その目的に沿った戦術面で視覚化された仕組みがUI
  • UXデザインは、ビジネス側とシステム側の繋ぎ翻訳の役割
  • ヒトを中心に据えるデザイン活動は、適切な経験価値を導くための行為
  • UX(ユーザー体験)とは、信頼関係と共感を醸成するための適切な「経験価値」を提供する役割

参考WEBサイト

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デザインの本質を理解しUXデザインを取り組むことで誰もがデザインの価値を生み出せる。

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