アート思考/デザイン思考で適切なアイデアを導く問いを立てる技術

目次

問いを導く準備

着想の引き出しを蓄積する

アート思考は、自己内部の観点(=内観)から周囲へ新たな問いを見出すプロセスとも言えます。アート思考を利用して新規ビジネスを立ち上げようとして、なかなか斬新なアイデアにたどり着かない場合、動機が不明瞭であったり、問題意識と自身の思いが密接でないことが考えられます。

自分がどのような物事に心が動くかを言語化した疑問のストックを日頃から用意しておくことも役に立ちます。あのレオナルド・ダ・ビンチも、生前に約8,000ページもの「ダヴィンチ・ノート(手稿)」を残しており、常にメモに記録し多くのアイデアを書き残しています。

Studies of Embryos by Leonardo da Vinci (Pen over red chalk 1510-1513)
Leonardo da Vinci, Public domain, via Wikimedia Commons

日頃から問題意識を抱いていると、意識することで視野角を無意識に拡がる状態が起こります。それは、まるで関連する情報の方から自然と舞い込んでくる感覚で情報収集が手軽に行えるような状態です。

また、ストックした情報を定期的に振り返えり、気づきとしての情報のアウトプットを見直し整理することで情報鮮度の管理が可能となり情報の連鎖による新たな情報の拡充に期待が持てます。

ポイント

普段から何か引っかかる物事:「驚き」、「納得」、「不満」、「違和感」などの快・不快を意識しなぜそう感じるか「意識する」ことが新たな問いを立てる第一歩となる

マインドマップの活用法

前述した、マインドマップのスマホアプリを活用して日常の感情を言語化して問題意識をメモ代わりにストックすることもアイデアのストックに便利です。

特に、音声データを文字データとして記録できる機能もあり、手軽に記録メモを残せます。メリットは、反復し見返すことで新たな気づきを得る効果も期待できます。ポイントは、移動時間などの隙間時間を有効活用することです。

次項では、アート思考とデザイン思考において目的別の「問い」の活用を解説します。

「問い」起点と種類

アート思考とデザイン思考での利用法

アート思考の視点は、自己内部から湧き上がる思いから始まります。それは経営では、組織を取り巻く社会や環境に対する思いで事業のパーパスを見出して事業をなすことであり、日常に抱く疑問や違和感が新たな事業アイデアの起点となります。

一方、デザイン思考における観察対象は、課題解決における既存ユーザーなど他者です。その他者の視点で世界がどの様に映るかを把握し共感することがポイントになります。

観 察アート思考デザイン思考
対 象自身の内側から感じる日常や世の中ユーザー(対象者)の課題
目 的日常の新たな課題の創造と解決潜在的な価値観の把握と課題解決
アート思考とデザイン思考の「観察」から問いを精錬する際の違い

問題の「解決型」と「創造型」

ここではアート思考とデザイン思考で問いを立てる実践法を整理していきます。冒頭でも伝えたようにアート思考とデザイン思考では、プロセスの最初の観察する対象は自己(内面)他者(外部)で異なります

アート思考の場合では、直感(WANTS起点)を大切にしますがクリティカルシンキングの併用で客観的な観点から自身のビジョンを検証しアイデアを鍛錬します。それは、強靱な鋼を作り出すために熱い鉄を繰り返し打ち込むように自問を繰り返す自己研磨の行為であり、問題創造型の問いと言えます。

デザイン思考では、主に既存の自社資産(SEEDS起点)や流用によるビジネス展開(NEEDS起点)において、改善すべき問題点の把握や解決を行います。その場合、「問い」は対象者の潜在的な価値観の把握であり共感です。

つまり、デザイン思考は、観察や傾聴から紐解いた潜在的な価値観を理解する共感行動と市場考察に対するロジカル思考の併用で施策の整合性を検証しつつ問題解決型の問いを行います。

イノベーション開発におけるアート思考とデザイン思考の相対関係
参考:アート思考とデザイン思考の関係

もちろん、この2つのアプローチが重なり合う状況もあります。既存サービス(SEEDS起点)の改善から価値の再定義による問題を新たに解釈する課題設定となります。

かつて、米国の鉄道産業は主にヒトやモノの輸送が主の提供価値として捉えることができず、旅客機の旅行産業の参入で物量や移動速度など効率と利便性の前に衰退した歴史がありました。

表層的な問題だけを改善しても、勢いを有す新興勢力に太刀打ちはできません。既存サービス(SEEDS起点)や市場考察(NEEDS起点)と合わせて、既存価値の再定義(WANTS起点)を合わせた発想していきます。

アート思考とデザイン思考を合わせて、自社アセットの進化型ビジネスを発動させることもイノベーション開発に必要となる場合があります。

課題設定を「改善」に求めるか、新たな活路となる「創造」に重きを置くかで問いの立て方は異なる

次項では、具体的な「問い」の実践法を紹介します。

「問い」を深める2つの手法

1. 5Whys分析(なぜなぜ分析)

問題改善型の「問い」のアプローチ

トヨタ自動車が社内で採用している原因究明や改善分析の手法である「5 Whys分析(通称:なぜなぜ分析)」があります。問題が起きたときに「なぜ?」を5回ほど繰り返して問うことで問題の本質を深く掘り下げて洞察を導く手法です。

5回ほど自問自答していくことで目の前の事象が深掘りされ、徐々に因果関係や問題の原因が構造化されて本質が顕れてきます。

本来のなぜなぜ分析の目的は、現場で起きた問題の解決手段を導く分析手法でが、この手法を利用することで問題の本質へ掘り下げることが期待できます。

5Whys分析の注意点は、個人の感情や思い込み、また具体性のない事象(推測)を論点に据えないことが挙げられます。

起きた事象に集中し思い込みになる「推論」や「推察」を避けて、原因やその構成となる要因を整理した上で解決策を見出していく

デザイン思考において、問題解決の手法としてそのまま利用が可能です。アート思考の場合は、あくまで創造的な発想を導く為の洞察を深める手段として「5Whys分析」を活用します。

その場合は、回数には固執し過ぎずに自問自答の工程を繰り返しながら着想の飛躍に意識を集中させます。

2. アプリシエイティブ インクワイアリー(AI問診法)

ポジティブ心理学のアプローチ

アプリシエイティブ インクワイアリー(AI問診法)とは、関心や強みなどポジティブな側面に対し問いかけながら潜在的な可能性を探究し未来に向かう肯定的なイメージを共有し、変化に向かう力を養い成長プランを描く手法です。

その役割を端的に言い表せば、「未来の可能性の解像度を高める」ことです。この心理学の手法は本来、人材開発や組織改革などに主に活用されてきました。

アート思考の場合、漠然とした初期の問いの入口となる快・不快となる要因に対しポジティブな問診手法を用いることで問いの論点や輪郭を明確にするのに役立ちます。

例1:「自分にとってなぜ興味をひかれているのか、その根本の原因は何であるか?」

例2:「「どのようにしたら自分はこのアイデアにもっと夢中で得られるものを見いだせるか?」

ポイント

ポジティブな感情で自身の内側から湧き上がる気持ちに呼びかけるようにして、問いが先に進むような論点を意識する

アプリシエイティブ インクワイアリーの4つのプロセス(4Dサイクル)

STEP
Discovery|発見

関心事項の中心となる価値・強み(ポジティブコア)の探索 :「どのような点を最も面白いと感じているのか?」

STEP
Dream|望ましき未来の姿

そのアイデアにより未来がどう変化するか可能性の描写:「その価値が実現したら社会にどのような変化をもたらせるか」

STEP
Design|実現方法の設計

アイデア実施のための理想と現実を埋める作業:「どのような人材やチームが必要になるか」

STEP
Destiny|行動計画の策定

継続的に取り組むための実行計画を活動内容に落とし込む:「はじまりの一歩をどう行動したいか」

AI問診法は、内発的動機づけであり否定的な固定概念の枠組みから外れて、求める未来の姿に集中しチームの共通目標の維持から能力を発揮する仕組みにあります。課題発見よりも、改善対策やビジョン策定などに適した手法と言えます。

まとめ

「問い」で筋の良い発想へ飛躍

アート思考やデザイン思考などのアプローチや心構えを学んでも、ビジネスの現場で実践してみて期待した斬新なアイデアを得られない場合、多くの場合は初期の問いの立て方に問題があることを伝えてきました。

繰り返しですが、どんな思考技術を用いても問いの着眼点や切り口が平凡では、そこから導かれる施策はそれ以上に斬新なものに飛躍させることは期待できません。問いの立て方次第でビジネス継続の成否が掛かっていると言っても過言ではありません。

まずは、「問い」で多角的な切り口で多くの問題点を洗い出します。また仮説を立てる際にも、問題を構造化し論点整理をすることで論理的に仮説立てが行えます。

また、注力すべき点はどのように問題解決(How)することだけでなく、筋の良い新たな問いを発見(What)することです。それにより、少ない情報でも創造的で独創的な発想を導くことも可能となります。

総括:適切な問いを立てる技術
  • 与えられた課題と論点は複眼で捉えて新たに「問い」を深掘りし思考をストレッチする
  • 視座を高めて大局的に事象を俯瞰したり視野を広げて問いを掘り下げたりして論点を研ぎ澄ます
  • 初期仮説から問いを繰り返して抽象化しながら思考を跳ね上がらせる余白を持たせる
  • 洞察が浅く論点が鈍い状態ではそこから生まれてくるアイデアはそれ以上に斬新なものにはならない
  • どんな問題を解決すべきかを意識することで問題の真相の解像度を高める

参考文献

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イメージ画像|アート思考やデザイン思考における正しい問いのデザイン方法とは何かを解説します。

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