変化の時代、固定概念を超える「問い」が新たな発想を生み出します。多くのビジネス書でも、テーマとして扱われてきました。
今回は、問題解決や新たなアイデアの発想などで新たな視点を導く「問いを立てる」実践を探索していきます。キーワードは、「深めて、磨き、高める。」思考のストレッチです。
イノベーティブな企業も実践する「問い」による問題解決メソッド
固定概念を打ち破り思考力を高める役割
ビジネスシーンでは、問題解決において前提条件を「問い直す」ことがあります。それは、現状の思い込みを見直すことで、新たな問題解決の視点を見いだす効果が期待されます。
トヨタも採用する本質を見抜く「問い」の実践テクニック
企業の例では、トヨタ自動車の社内で改善活動において実践されている「なぜ」を5回ほど問い直すことで、奥底に潜む問題の本質を見出し抜本的な解決策を探索する「5 Whys分析(なぜなぜ分析) 」が有名です。
5Whysの分析例:
事象:機械が突然停止した
- なぜ機械が停止したか? – 過熱したため
- なぜ過熱したか? – 注油が不十分だった
- なぜ注油が不十分だったか? – メンテナンススケジュールを見落とした
- なぜスケジュールを見落としたか? – 担当者の管理システムに問題があった
- なぜ管理システムに問題があったか? – 定期的なシステム点検 が行われていなかった
「問い」を繰り返すことで、思考が深まり、独創的なアイデアを生む糸口を見いだすことが期待できます。さらに、チームでアイデアを検討する際には、固定概念や思考停止を乗り越える効果も挙げられます。
つまり、「問う」行為とは、事象の全体像に意識を向けて問題解決の解像度を深化・飛躍させる役割と考えます。
思考を深めてイノベーションを導いた事例で、宇宙開発に革命を起こしたスペースX社の再利用ロケット「ファルコン9」の開発事例を以下に紹介します。
SpaceX社: 『なぜ』が切り拓く技術イノベーション事例
SpaceX社の飽くなき「問い」の追求 (クリックで表示)
SpaceXが開発した再利用型ロケット「ファルコン9」は、実用的な再利用ロケットの一歩として注目を集めました。それは、ロケット開発コストを削減したことで知られています。この成功の裏には、数々の「なぜ」を深く掘り下げ、その答えを技術革新に繋げた努力が推測されます。
再利用ロケット開発の背景と課題
- 従来のロケットは、一度使用すると廃棄されるため、打ち上げコストが高額
- 高コスト構造を打破し、宇宙へのアクセスをより容易に、かつ信頼性を保つことを目標に掲げる
- ロケットを再利用するためには、以下の課題を克服する必要がある
- 大気圏再突入時の熱: ロケットが地球の大気圏に再突入する際に発生する高温から機体を守る技術。
- 着陸時の衝撃: ロケットを正確な場所に着陸させ、機体を損傷させない技術。
- コスト構造の変革: 再利用システムの開発・運用にかかる費用を、使い捨てロケットの打ち上げコストよりも低く抑えること。
「なぜ」を深掘りし、技術革新へ繋げる
SpaceXは、「なぜ」を掘り下げて以下の答えを探求しました。
- なぜ、ロケットは再利用が困難なのか?
- 大気圏再突入時の極限の熱と着陸時の衝撃に耐える機体構造の開発が困難であるため。
- なぜ、耐熱性の機体構造を作れないのか?
- 既存の耐熱素材では、重量が増加し、打ち上げコストが高くなるため。
- なぜ、正確な着陸を実現できないのか?
- 大気圏再突入時の予測が難しく、制御システムが不十分であるため。
これらの問いと課題設定に対して、SpaceXは次のような技術革新で3課題の解決策を導きます。
- 耐熱構造の不要性へ着目:
- 第一段エンジンとタンクのみを再利用する構想で、スペースシャトルのように宇宙まで到達した部分の回収・再利用することをせずに、高温対策の必要性と運用費用を軽減。
- 着陸脚の改良:
- グリッドフィンと呼ばれる可動式の翼と、反力エンジンを組み合わせることで、ロケットの姿勢を制御し、正確な着陸を可能にする。
- 自律制御システムの開発:
- ロケットの打ち上げから着陸までの全過程を、高度な自律制御システムによって自動化する。
SpaceX社のブレークスルーと課題
この再利用型ロケットによるSpaceX社の成功は、宇宙開発の費用を削減し、商業宇宙旅行や火星への有人飛行といった新たな可能性の扉を開きました。
今後の課題は、再利用の回数を増やし、使い捨てロケットよりも運用コストを低減することを目指しています。
組織内で問題解決を促進する「問い」の役割
問題の前提条件をアップデートする必要性
社内で「問い」が必要となる主な場面は、事象の分析や解決、改善活動や新規事業の開発などの企画立案が挙げられます。特に社内で改善活動を行う場合、注意すべき点は、自社で認識されている問題や課題が、必ずしも現状に見合った論点とは限らないことです。
なぜなら、企業文化は過去の成功体験を礎に形成されたり、業界の永き慣習で思考が膠着していたりする場合、更新されない思い込みの死角となる「思考の囚われ」が起こりえるからです。
思考の囚われの例では、既存の大手自動車メーカーで主流のガソリン車エンジンの開発競争の最中、電気自動車のモーター開発では、テスラなど新興電気自動車メーカーに遅れを取った歴史があります。また、デジタルカメラが台頭してきた時代に、米国のフィルムメーカー大手Kodak社が破産した例も挙げられます。
仮にアップデートを行わないで改善計画を進めた場合、問題の本質が現状と乖離していた場合は計画が思うように進まず頓挫する可能性があります。
ある意味、古い海図で航海に出るような行為です。まずは、前提条件を振り返りながら、事象を見直す「問い」で現状と照らし合わせながら、プロジェクトの目指す目的や理解を深めます。
前提条件や問題自体を問い直すことで、思考をアップデートし論点のずれや漏れを確認する
次項では、問いかけの基本型となる概念を整理し解説していきます。
ビジネスで思考力を深める3つの「問い」基本概念
最初に、基本となる3つの「問い」の概念を見ていきます。
- 理解を深める「問い」:So what?
- 論点を磨く「問い」:Why so?
- 確証を高める「問い」:True?
この3つの「問い」:So what?=それは何か?(実体の探求)、Why so?=その意味は?(認識の一致)、True?=事実に基づいているか?(証拠の確定)は、クリティカル思考(=批判的思考)でも取り上げられる本質を見出す「問い」の基本型です。※本稿では、クリティカル思考 の実践法ではなく「問いの立て方」の本質やヒントを解説していきます。
この基本概念の問いかけを繰り返すことで、事象の理解を深めます。そして、矛盾点や見落としていたリスクの発見など思考の死角を事実を基に、再整理しながら解決までの筋道を描きます。
「思考のストレッチ」がもたらすユニークな視点
新たな発見を促す思考の広げ方
問いかける行為とは、物事の本質を見据える思考のストレッチとも言えます。それは、前述したように思い込みから解き放し、視野を拡げて事象の本質や施策の目的を認識する役割です。
別の言い方をすれば、視野を拡げて物事を多角的に見渡すことで問題の新たな切り口や論点に気づくことにも繋がります。
例えば、一休さん(一休宗純)の逸話で、「この橋、渡るべからず」という看板に対し橋の中央を歩くという機転をきかせた話は多くの方がご存じでしょう。
とんちに限らず思考の視点を切り替える行為は、カメラで言う広角や望遠など視写体に合わせてレンズ交換を施す行為と同様です。「橋」と「端」という同音異義の共通点に着目する展開は、内省の問いかけでユニークな解決策を導き出した喩え話と言えます。
「問う」ことは、視野を拡げ事象の捉え方である視点を変え新たな解釈や洞察を浮かび上がらせる
「問い」は問題の論点の輪郭を整えながら、視野を拡げて新たな発見を促す思考法です。取り組むべき論点の解像度を高めながら、視野を拡げて思考を発展させるプロセスが存在します。
次項では、問いを立てるための4型や具体的なアプローチを紹介して行きます。