UX(ユーザーエクスペリエンス)を千利休の茶道の思想・哲学からを再考するシリーズ1回目。UXにおける共感マップや関連深いデザイン思考の問題解決プロセスにおける対象者を深く理解する「共感」という行為。
幼い頃に親や周りの大人から「相手の気持ちになって考えなさい」とひとを思いやる気持ちを諭された記憶は誰にでも記憶があるかと思います。
共感とは、単に「同情」する感情移入する行為だけではありません。特にデザイン思考の「共感」では、問題の本質を探るため相手の視点でものごとを探究する活動です。
今回は、千利休の茶の湯の発想を参考にユーザーエクスペリエンスを構築するために重要な「共感力」を考えていきます。
ユーザーエクスペリエンスを高める茶道から学ぶ共感の醸成
主観を拭い去る「にじり口」の発想
茶室には、躙口(にじり口)と呼ばれる客用の小さな出入り口(左側の写真下部の四角い引き戸)があります。これは茶人、千利休が封建社会で戦国時代という主従関係が強い時代に、茶室の中は全ての人が平等であることを示すため、あえて入り口を低くし刀などの装身具を外し頭を下げなくてはならない高さ約66cm x 幅約63cmほどの小さな入り口を茶室に設けたと言われています。
茶室の中では自分というものを一度捨て、お互いにひとりの人間として対峙するための仕掛けとして、空間の所作によって気付かせる究極のユーザー体験装置(UI:ユーザーインターフェース)とも言えます。
これは、デザイン思考の初動における対象者の問題探索を行うための共感プロセスにおいて自分本位の思い込みを拭い去ることの重要性と重なるところがあります。
共感におけるネガティブ要因である思い込み的「自己本位」な視点は、対象者を深く理解し共感する障壁となります。つまり、デザイン思考において対象者を観察し理解する場合、まず偏見や思い込みなどを意識的に拭い去る構えが、対象者を深く理解する近道と言えます。
具体的な方法として、一人ではなく数人で意見交換しながら進めることで客観的な視点を維持しやすい環境を築きます。更には、「ユーザーインタビュー」や「ユーザー調査」などの仮説を超えた現状の理解に努めます。
また、ユーザー像を擬人化した「ペルソナ」を設定し、その人物像の活動を時間と感情軸で表した「ジャーニーマップ」などの手法では客観的に問題発見を可視化し統一した共感イメージを醸成することで、課題解決におけるブレない方向性を確立する意図と役割があります。
「共感力」とは何か
共感力を妨げる3つのネガティブ要素
まず本質を理解する上で、デザイン思考のプロセスにおける共感を妨げる主なネガティブ要因から整理し、その後に全体構造を考えてみましょう。
- 1.周囲へ興味関心が低い
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周りのひとや変化に関心が薄く無神経
- 2.自己顕示欲が強い
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他人の話しを聴くよりも自分のことばかり話したがる
- 3.偏見の眼差し
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思い込みや決めつけが強く他人の意見に否定的発言が多い
会社組織や日常など、何処にでも居そうで特定の人物像を思い浮かべるかもしれません。仮にその様な方々が周りに居たとしても逆に「共感力」を整える良い機会に成り得るとも考えられます。
そもそもデザイン思考の「共感」とは先述した通り、対象者を深く理解し問題定義を進めるための行為です。勿論、上記3つのマイナス要因を自分自身に向けて、周りを観察して相手の気持ちを察し、話しに耳を傾けたり、また、偏見を持たないよう意識することで「共感する力」は少しづつ鍛えられます。
これらネガティブ要因を意識しつつ、今度は共感を支えるポジティブな特徴を確認し「共感」の輪郭を明確にしていきます。
共感力を支える3つのポジティブ要素と養成方法
- 1.観察力
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周囲に対して好奇心を持ち状況を受け入れる広い視野
- 2.想像力
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相手の視点で物事を捉える観察に基づく仮説思考
- 3.表現力
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理解を客観的な言語や視覚化(相づちなどの身体反応)することで他と意思疎通が容易になり思い込みも補正し易くなる
周りの機微を察する敏感なセンサーによる状況認識、その状況をより深く理解し自分事化するための情動的な感情移入、そして、理解を俯瞰するために言語化・視覚化などに成形し客観的に情報を整理することで、他との繋がりが構築され共感することが出来てきます。
職業で例えると、共感力を要するのは演劇・映画などの役者や俳優などが挙げられます。役柄に同調させ現実味を生み出す礎となる観察力から学び得る情報、理解を補うための想像力、そしてその理解を演じる表現力で構成しているからです。
因みに私たちがこのような共感力を身につける簡易的な方法として、読書や映画・演劇を鑑賞するなど、観察や想像力なども鍛える有用な方法として有名です。特に読了や鑑賞後に人と感想の意見交換をすることで、多様な視点に触れる事も出来き、客観性を養い共感する下地を整えることも期待できます。
「共感」と「同情」の違い
はじめにも触れましたが、同情とは初動の感情移入で、そのままでは問題の本質に届かないことがあります。あくまで客観的な視点を要しながら問題の表層と深層も捉えることで課題設定に繋げていくことがデザイン思考における「共感」の目的であり、感情に同調するだけの「同情」との大きな違いと言えます。
感情を捉えた後にその根源を深く追求し、最適な問題定義へ導き思い込みによる短絡的な結論に結びつけを回避することが重要になります。
まとめ
ユーザーエクスペリエンスにおける「共感」を整えるために
ユーザーエクスペリエンス設計において、対象者の潜在的ニーズを浮かび上がらせるための理解フェーズの共感行為は客観的に対象者を理解することで対処すべき課題の精査が可能になります。
「にじり口」のような空間的仕掛けの活用方法として、例えばワークショップを開催する場合などは、職場と異なる空間であえて開催し、個人のPCやスマフォは排除して私服で参加を敢えてします。
新たなアイデアを発見し合う時に、このような非日常の演出は、心持ちを整える千利休が意図的に仕掛けた「にじり口」のような仕組みに繋がります。
今後はユーザーエクスペリエンス(UX)を実施するための、洞察を深める観察方法や心構え(=マインドセット)、ツールであるペルソナ設定やジャーニーマップなどの利用法なども「UXの茶釜」などで紹介していきます。
- 対象者の深層的課題を理解するためには客観的視点が重要
- 共感/理解を妨げる3つの要因:「無関心」、「自己中心」、「偏見の眼差し」
- 共感構造の3要素:「広い視野の観察力」、「観察に基づく想像力」、「表現を駆使してアイデアを補正し共有」
- 同情との違いは、対象者へ感情移入を行いながらも客観的な視点で課題の深層を発見する目的とする点
- アイデを出し合う時などは、非日常の演出「にじり口」的な仕掛けで気持ちをリセットする
参考文献
- ペン編集部「千利休の功罪。 (Pen BOOKS) 」 CCCメディアハウス 2009年
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