DX導入で見落とされがちなポイント: UXデザインの体験設計と経験価値

アイキャッチ画像|DX導入における経営者やリーダーが理解すべき課題:「経験価値」と「体験設計」
Georges Seurat “A Sunday on La Grande Jatte” — 1884. The Art Institute of Chicago. (CC0)

コロナ禍の影響によりテレワークやオンライン営業などの非対面の就業環境や各種申請の電子化によるペーパレスなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)のビジネスへの浸透がさらに進んできました。

その反面、最新システムやテクノロジーを導入しても十分な活用がままならない話しも耳にします。その主な原因として考えられるのは、DX導入時に利用者側の期待と提供側が考慮すべき利用経験や体験との乖離です。

DX導入の課題として見落としがちな点は、内外の全ステークホルダーに向けた満足を高める適切な体験設計UXデザイン(ユーザー・エクスペリエンス・デザイン)とそこから醸造され使い続けて貰うための経験価値の提供の必要性です。

今回は経験価値の理解を深める事例でスターバックスと千利休の比較しながら、デジタル技術の導入におけるDXの失敗事例を交えながらUXデザインの重要性を解説します。

目次

なぜDX導入にUXデザインが重要か

デジタル技術の浸透による生活様式の変化で、社会個人、そして、組織の在り方の3段階の変容からUXデザインの重要性を確認していきます。

ひとの感情が起点となる社会背景

デジタル環境が日常生活にも広く浸透する一方、私たちの価値観も従来とは異なる様相へ急速に変容しつつあります。その理解を深めるためジャーニーマップ人間中心設計CX(顧客体験)やUX(ユーザー体験)など、さまざまな体験設計に関する専門用語もビジネスシーンに徐々に使用されてきました。

デジタル化による技術的模倣が容易になり、同質のサービスや商品が市場に溢れ出しそれらライフサイクルが短命化する一方で、利用するユーザー側の感情や記憶から構成される体験設計が継続したサービスやブランドとの関係構築や周囲の購入判断に影響する重要性が着目されてきました。これを、共感を育む経験価値を基にした体験設計の概念として本稿では解説を進めていきます。

ひとの感情を起点にした同様な風潮は、中性ルネサンスの「人間中心主義」が挙げられます。共通する点は、当時の美化された神を崇拝する現実味の薄れた宗教画の席巻と現代における無形なビットデータ化した無機質なデジタル様式に対し情緒やひとを謳歌する感性における人間回帰の傾向が挙げられます。

意思決定に作用する個人の価値観

米国のハーバード大学大学院の教授のセオドア・レビット博士は著書で、顧客は機能でなく価値で購買判断を行う考察を説いた、「ドリルを買う人が真に求めているのは、穴を開ける行為」は現在でも購買心理を説いたフレーズとして語り継がれています。

また、同様の洞察は49年後の2017年に、クレイトン・クリステンセン教授の著書「ジョブ理論では、ミルクシェイクの購買動機を片付けるべきジョブ(Job=用事)に喩えて解説しています。

「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを”雇用”させたか」(中略)来店客はたんにプロダクトを買っているのではない。彼らの生活に発生した具体的なジョブを、ミルクシェイクを雇用し片づけているのだ。

クレイトン・クリステンセン著「ジョブ理論」ハーパーコリンズ・ジャパン出版、2017年

これはマーケティング観点で言いえば、良き物を造れば売れたプロダクトアウト(商品主体)から市場の嗜好性を理解してモノづくりに反映させるマーケットイン(市場主義)への変容と言えます。

つまり、サービス情報や商品を利用するユーザーは適切な体験が提供されることで経験価値を積み重ねながら継続した関係性が育まれます。言い換えれば、負の経験となる体験を一度でも経験してしますと二度とそのサービスや商品を利用して貰えなくなります。

次項では、技術の進歩とUXデザインの関係を個人の価値観の変化から探索していきます。

生活様式の変化による個人の価値変動

モノが無形化しビットデータへ置き換わる中で音楽産業では、コンパクト化して視聴環境を拡張したSONYのウェークマンから、大量の音源データを持ち運べ利便性を高めたAppleのiPod、さらには、SpotifyやAmazon Musicなどの定額のストリーミングサービスで自由に多様な音楽をどこでも聴ける楽しみ=価値が浸透しました。

映画も同様に 場所を選ばない自由な楽しみ(ロケーションフリー)による、パッケージ商品の消失です。また昨今の電子マネーの浸透で現金を持ち歩かない利用減少や、小売り店舗のレジや配送の非対面化(無人化)、そして電子マネー送金の浸透で銀行を返さないで個人間のダイレクトなやりとり(P2P:ピア・ツー・ピア)が可能になりました。

購買行動も前述の音楽配信サービスのように所有からサブスクリプション型の期間契約へ変容し、B2CもB2Bでもクラウド環境を介した物理的なパッケージプロダクトを提供しないアプリケーション利用などに変容しました。

例えば、ソフトウェアや、またオフォス環境もコロナの影響でリモートワークが増えたことで自社ビルや固定フロアーの保有でなく、シェアオフィス契約で労働環境を自由に選択する企業も増えました。これは所有(売り切り販売)から共有(継続したサービス提供)の流れです。

さらにはSDGsなどで企業や生活者側も環境意識の高まりから、リユースやシェアーなどのサーキュラーエコノミー(循環経済圏)も根付きつつあります。生活様式がデジタル技術で変貌する中、私たちは形無きブラックボックス化した日常で、所有に代わる情緒を動かす体験を求める意識が高まっていると考えます。つまり、経験価値が生みだされる体験の重要性を表していると言えます。

デジタル生活様式の変化における価値感キーワード
  • ロケーションフリー
  • パッケージ商品の消失
  • 非対面化(無人化)
  • ピア・ツー・ピア(P2P)
  • 所有(売り切り販売)から共有(サービス提供)
  • サーキュラーエコノミー

次項では、サービスや商品などの体験を提供する側である組織における変容を確認していきます。

組織が直面する存在価値の変容

「外発的ミッション」から「内発的 “パーパス” 」経営へ

昨今はSNSなど無償のインターネットサービスの普及で、生活者からの情報発信や購買前の比較検討など情報を適切に吟味できる情報が増えたことが生活者の購買行動に大きな影響を与えてきました。

さらに、企業に対する透明性や対応の不備や矛盾、スローガンだけの企業理念などに対しても生活者は意見を発信する機会とパワーを得ました。こうして透明性が重要視される時代では、企業側も提供価値の真意を問われる状況と言えます。

企業も持続可能性に直面しつつ、市場の差別化や競争など外発的な要因によるミッション(Mission:使命や大義)を掲げることから、内発的に組織の存在理由を明確に見据えたパーパス経営(Puropose:存在意義)を事業継続と合わせて改めて向き合う時代に直面してきました。

アート思考の高まりなどは、予測不可能で対処も難しい問題解決などの場合、原点を見つめ直す内発的な存在意義から組織方針や事業を再構築する思考法として注目されて来ました。これは、パーパス経営と類似する外部要因だけではない内省的な動機が重要な原動となる点が共起したとも考えられます。

提供すべきは最新技術の導入=DXではなく、そこから生まれる経験した価値や醸成された情動で社内外360°の全ステークホルダーとの共感や信頼獲得を構築することが事業継続に影響を及ぼす

次項では、UXデザインの理解を深めるための経験価値を構成する5つの要素や事例を解説します。

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