【ビズクロ-第1回】Biz戦略のアイデア帳-ローソンの差別化戦略

毎回、企業の事業戦略の事例を紹介するビジネスクロスワード(ビズクロ)。
コンビニ業界で独自のポジションで成長を続けるローソンの事業戦略を紹介します。

新規事業や斬新な事業展開の企業事例を紹介するビジネス クロスワード:ビズクロ企画。

初回は、進化し続けるコンビニ業界のローソンの事業戦略から読み解く差別化の事例(ケーススタディ)を紹介します。

目次

コンビニ業界の現在

米国発祥の小型店舗の小売チェーン展開が国内で開業したのは1974年。それ以来、飲食料品の販売を中心に日用品の小売りから、ATMやマルチ通信端末設置、金融や各種支払手続きの代行業務など生活全般をカバーする業態へ独自の進化を遂げてきました。

その後、都市ではコンビニが乱立する商圏制覇の飽和状況や、人手不足による深夜営業を抑える業務の変更も現れてきました。

また、値引き販売が無い点では、製品メーカーにとってはコンビで商材を取り扱って貰うメリットがあります。そこで、コンビニと共同でプライベート商品の開発やキャンペーンも盛んに行われ差別化も行われて来ました。

現在では、大手3社であるセブンイレブン、ファミリマート、ローソンでは、自社オリジナル惣菜やスイーツなど商品開発をメインの差別化要因としつつも、地域の便利な小売店から新しい切り口の事業展開(=イノベーション)が模索されています。

独自の店舗展開や事業成長を続けるローソンの差別化とイノベーション視点の事例を交えて紹介します。

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コラムイノベーション理論の概要

19世紀オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが唱えた「経済発展の理論」の概念は、技術革新だけではなく技術の応用による製品開発や生産方式の改良、新たな供給源の確保、また、新たな組織創出や販路開拓や独自の市場開発などの「新結合」という言葉で表わされ、後に、イノベーションという表現が補足されました。

イノベーションの5タイプ
  1. プロダクトイノベーション:新しい財貨(=価値)の生産
  2. プロセスイノベーション:新しい生産方法や商業的な取扱方法の導入
  3. マーケットイノベーション:新たな販路の開拓
  4. サプライチェーンイノベーション:原材料の新しい供給源の獲得
  5. オーガニゼーションイノベーション:新しい組織の創出

ローソンの成長戦略

独自路線の店舗展開

セブンイレブン、ファミリーマートに続く業界3位のローソンは、業界で初となる試みや異業種との積極的な協業などで差別化を施してきました。

ローソンの沿革(抜粋)

年表ローソンの動き
1977年11月業界初の物流センター設置
1996年3月コンビニ初、切手・はがき・収入印紙取り扱い開始
1997年11月コンビニで初めて天然ガス使用の低公害配送車の導入
2006年9月民間企業初、環境省と「環境保全に向けた自主協定」を締結
20114年5月株式会社ルネサンスと、健康寿命の延伸を目指して「健康に関する業務提携」を締結
2014年10月複合書店フタバ図書とコンビニエンスストアが一体となった「未来型書店コンビニ」オープン
2015年4月埼玉県川口市にシニアとご家族を支援するケア(介護)拠点併設型店舗1号店をオープン
2016年12月業界初の完全自動セルフレジ機「レジロボ®」とRFID(電子タグ)の実証実験開始
2018年8月調剤薬局併設の「ローソン千駄木不忍通」店が薬・介護・栄養相談ができる店舗としてリニューアルオープン
2021年2月Uber Eatsでは国内初となる医薬品のお届けを開始
2021年6月「LAWSONマチの本屋さん」を立ち上げ
引用元:ローソンHP>ローソンの歴史>沿革より(一部抜粋)

企業理念に即した多角化モデル

その根本にある企業理念には、地域とひとに配慮した「健康志向と環境保全」があげられます。もちろん、競合他社も利便性だけでなく環境問題、健康を意識した企業理念を掲げています。

しかし、他社ではワンフォーマットと呼ばれる同一型の店舗サービスの提供を展開する一方、ローソンはマルチフォーマット戦略で多様な店舗形態を展開してきました。

具体例では、ナチュラルローソンやローソン100、ヘルスケアローソンや院内店舗のホスピタルローソン、また、書店型コンビニなど、通常店舗と異なる店舗形態や異業種との提携による※集積型の多角化(コングロマリット)ビジネスモデルです。※既存分野で垂直統合や水平統合など広義の多角化に対し、異なる分野の新市場でビジネスを展開する集積型(コングロマリット)ビジネスモデル。

次項では、イノベーション観点から事業成長におけるローソンの事例をみていきます。

イノベーション観点からみるローソンの経営手腕

マーケットイノベーションで売上20倍

新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓。ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わない。

シュンペーター『経済発展の理論』原書第2版、塩野谷祐一、中山伊知郎、東畑精一訳、岩波文庫、1977

地域課題に根ざす市場開拓

電子書籍やEC販売が主流となる中、街から本屋の姿が消えて、24時間、いつでも書籍や雑誌を手に取れる書店併設型ローソンを2014年から出店しました。

その背景には、書店が一つもない市区町村は全国で26.2%も存在する現状でした。そこで、ローソンは自治体や地域の書店とコラボレーションを図り書店併設型のコンビニ店舗を出店しました。

2021年からは、日本出版販売株式会社と連携してローソン独自の書店併設型店舗「LAWSONマチの本屋さん」を開業しました。

「ついで買い」の購買心理

その結果、書籍・雑誌カテゴリーの合計売上が全国のローソンの平均と比較して約20倍となる店舗も出て来ました。

本来、コンビニの雑誌などの販売は隙間時間を埋める働きでお弁当や飲料との「ついで買い」として相性のよい商品でした。

またリアルな書店の場合、手に取り意図せぬ好奇心との出会いはデジタル空間の推薦機能より興味を揺さぶられることがあります。

特に深夜のコンビニでは、時間を気にせずに物色しながら衝動的な「ついで買い」の行動変容が起こりやすいと推測され、この2つの「新結合」が購買動機のみならず来店動機の形成にも繋がると考えます。

さらに、少子化高齢社会における地域課題を見据えた介護の拠点窓口となるケアローソンや薬局を併設したヘルスケアーローソンなどの新業態の店舗にも取り組んでいます。

プロセスノベーションで利便性を高める

新しい生産方法、すなわち当該産業部門において実際上未知な生産方法の導入。これはけっして科学的に新しい発見に基づく必要はなく、また商品の商業的取扱いに関する新しい方法をも含んでいる。

シュンペーター『経済発展の理論』原書第2版、塩野谷祐一、中山伊知郎、東畑精一訳、岩波文庫、1977

生産性と利便性を高める業務プロセスの改革

ローソンでは、店内で手作りのおにぎりやお弁当を作る「まちかど厨房」のキッチン設備を設けることで、廃棄ロスや物流負荷の軽減を行っています。

その効果は、物流が困難な遠隔地や豪雪地域でも倉庫スペースを拡充し冷凍食材で店内調理を行い、作りたて調理品を提供出来るようにしました。これにより、頻繁な物流が困難な離島である佐渡島や北海道の最北端の稚内など競合他社が敬遠しがちな地域にも出店してきました。

まさに新たな生産方法で、買い手も売り手も、そして、地域社会にも良い影響を与える「三方よし」の発想を実現しています。

また、商品の扱いも店頭販売のみならずKDDIと提携しEC販売も行うにあたり、買い場である店舗を物流倉庫と捉えて全国47都道府県の約1万4500店舗を活用して注文から最速で15分で配達できるデリバリーネットワークを構築しました。

その分、店舗側のオペレーション負荷を見越したセルフレジの導入やスマフォで商品をスキャンし決済を完了するスマフォレジなどデジタル技術を積極的に取り入れ業務内容の改善にも取り組んできました。

さらに、今後は薬剤師などの専門資格者の対面販売に限られている一般医薬品をオンラインによるリモート問診を導入することで24時間、購入や配達が出来るように厚生労働省と計画を進めています。

まさに、あらたな生産方法の導入のみならず商習慣の改革において新たな方法を見出すプロセスイノベーションを実行している好例と言えます。

オーガニゼーションイノベーションでヒット商品を紡ぐ

新しい組織の実現、すなわち独占的地位(たとえばトラスト化による)の形成あるいは独占の打破。

シュンペーター『経済発展の理論』原書第2版、塩野谷祐一、中山伊知郎、東畑精一訳、岩波文庫、1977

コンビニにおいて、自社の商品開発は売上げに影響を与える生命線であり、その中でもおにぎりに続いてスイーツ類は主力ラインナップです。

ローソンは、2009年9月にコンビニスイーツのブーム火付け役となった「プレミアムロールケーキ」発売以来、数々のスイーツのアイデアを編み出してきました。

2019年3月には、「バスチー:バスク風チーズケーキ」を投入し世間でも新たなブームを巻き起こしました。その製品開発においては、従来と異なる稟議システムを組織内に導入し、企画開発のマーチャンダイザー(MD)の現場の声を直接聞く組織構造の改革が行われました。

現場主義から商機の兆しを育む文化

一般的な大企業では、物事の承認申請において最終決済者の説明までには、何人もの中間チェックが行われます。それ故に、オリジナルのアイデアは補正が施され、幹部社員の嗜好性を忖度するあまり無難で従来通りな企業カラーにアイデアが落ち着く傾向がありました。

現場の直接的な意見を聞き斬新なアイデアを編み出すために、そして商品の導入を素早く実現するために竹増社長が組織構造を変革しヒット商品のサイクルを紡いでいきました。

バスチー開発やローソンの成長戦略を竹増社長が語る

まとめ

コンビニ業界は、前述したように出店数など国内は飽和状態となり、ビジネスモデルもフランチヤズ方式という業態で斬新な差別化が付けずらい業界でした。

コンビ大手の中でも個性を現してきたローソンは、イノベーションの導入手法などは企業規模に関わられず参考になるヒントが隠されています。

独自の物流網の構築や異業種との協業によるサービス拡充、そして、一般的なコンビニ業界とは異なるマルチフォーマット業態の独自の展開により業界内のポジションを確立してきました。

それらはブレのない企業理念に基づいた行動により、小売業の枠を超えた地域との信頼構築や安心や安全なサービスの提供に発展させた事業展開は謙虚でありながら自信の現れとも言えます。

まとめ:ローソンの事業戦略
  • 他社との協業による「新結合」で市場を掘り起こし提供価値を確立し続ける
  • DXなどテックのちからを活用して社会課題の解決を地域や自治体、国をも巻き込んで推し進める
  • 生産プロセスの見直しや新たな商品の取り扱い方法の発想で既存資産を物流網に変換するなど視点の変換を活用
  • 現場主義を経営に活かすためにトップが直接的に現場の声を聞き入れる組織作り
  • 企業理念のブレない形で事業成長を進める意志と決意

参考文献

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