私たちは、起床から就寝まで外出時の洋服選びやランチのお店選びなど日々多様な判断と決断で意思決定を繰り返しています。
一方で、生成AIの進化と浸透は、天気予報のリアルタイム予報から高速道路の渋滞予測、金融商品のリクス評価・分析や文章作成、画像/動画の自動生成など、過去の膨大なデータから人間に代わって判断や行動のための情報整理やアドバイスを可能にしています。
企画書の作成においても、前提条件を端的に指示すすることでAIがアイデア出しや提案書の作成を代替することもできます。しかし、AIが現状の判断材料を提案しても、その最終的な決断や意思決定を下す行為は人間の所業です。
今回は、社内外で企画提案で相手の意思決定をスムースに導くための要因を整理して解説します。キーワードは、「判断の短縮化で決断を推進」です。
判断力と決断力による意思決定の構造
判断力と決断力の違い
判断力と決断力は混同されがちですが、その意味は異なります。判断力とは、物事を正しく認識し、論理的に評価する能力です。
例えば、スポーツの審判や医師がルールや事実・証拠など判断材料に基づき事象の判定(=ジャッジメント)する行為が当てはまります。
それに対し決断力とは、問題解決のために判断結果から行動の決定(=ディシジョン)を下す意志です。言い換えれば、不要な選択を果断に切り捨てる行為とも言えます。
例えば、経営においては事業転換や会社の合併、個人の転職や起業などリスクも伴う行動の決断を下すことを指します。
判断力 | 事象を認識し評価する能力 | 例)審判や医師など事象を的確に判定する分析(=ジャッジメント) |
---|---|---|
決断力 | 選択肢から行動に移す意志 | 例)経営者や個人が果断に決断し行動する意志(=デシジョン) |
意思決定を進めるための判断材料
判断と決断から成る意思決定は、連続した情報処理として行われます。例えば、キャンプに出かける場合には、事前に予定を組むために目的地の天気予報を調べて持ち物を検討するでしょう。
降水確率が高くなると携帯する装備品に雨具の所持の判断から、さらに、天候悪化の兆しが予測されると最終的なキャンプ実行の可否の決断が必要となります。仮に天気予測が刻々と変更し判断が付きつらい場合は、決断を鈍らし実行を中止する原因となるでしょう。
企画立案の場合も、承認側が意思決定のステージに立てる判断材料を含んだ企画書の情報構成になっていることが提案をスムースに通すための前提条件と言えます。
意思決定は、現状の状況判断で行動すべき意志を固める行為。
意思決定をスムースに前進させるには、判断を補足するための補足手法を次項で紹介していきます。
判断力を支える評価軸と手法
私たちは適切な判断をするために、事象を理解する評価・判断軸を設けることで勘に頼らない客観的な判断を導くことが容易になります。そこで、企画提案の際には承認側の判断力を補完する企画内容の判断材料となる評価軸などを企画書の作成時に意識します。
評価軸の例
評価軸を意識して企画内容を精査することで、承認側が提案内容を評価・判断をする際に感覚や勘などの主観的な意思決定を起こさせない配慮となります。結果として、相手の組織内部の不要な論戦を防ぎ決定を推し進める推進力ともなりえます。
つまり、選別側の評価軸を意識した企画構成にしてておくことで客観的な視点で情報を整理し判断できる環境を生みだし承認側の判断に掛かる時間を短縮する効果が期待されます。まずは、企画における一般的な4つの評価軸となる視点を見ていきます。
評価軸 | 内容 |
---|---|
1. 緊急性 | 提案の必要性や問題を放置しておくことのリスクとして訴求 |
2. 実現性 | 目的達成における、人材面、組織面、経費面などから鑑みる実現の度合い |
3. 収益性 | 課題解決を果たした後の利益面の予測値 |
4. 将来性 | 目的達成後に、どのような効果や展開が期待できるか |
※この他にも、効果性、インパクト性、優位性、将来の展開性などの評価項目もあります。
特に上記の「3. 収益性」や「4. 将来性」などは、経営層において比重が高い評価軸です。提案では、シミュレーションによる予測値を数値化して提示出来ると判断を早めて意思決定へ推し進める事も期待できます。
仮に緊急性が高く将来性に魅力を見いだせる提案内容の場合では、実現性や収益性の評価が現状では弱くても採決される見込みもあります。特に新規事業を創出する場合です。
これは意思決定における心理的な側面において、左脳の論理的な解釈による損得だけで人が必ずしも意思決定を下すのではなく、時には情動的なワクワクする右脳が影響するとも考えられています。
留意点は、提案側が自分たちのアイデアを客観的に評価する為のチェック項目として活用します。評価軸を企画書に掲載しても、納得して信頼を貰えるとは限りません。提案内容が相手に魅力的な内容であるかを自分自身で自己評価を提案前にする視点として活用します。
提案内容を自分で客観的にチェックすることで、承認側の課題認識を整理しやすくし判断を加速させ意思決定に集中できる環境を設けて決断のスピードを推し進める。
選択肢に優先順位をつけ判断を前に進める
前出の評価軸は、受け手側の主な判断軸(視点)を擬似的に設けて自身の提案内容を精査し、聴き手側の判断材料を整理しやすくする意図でした。今度は、その視点を利用して提案内容を数値化することで客観性と信頼を訴求するための方法を紹介します。
加重採点方式の評価例
評価軸に加重採点を設けることで、比較する選択肢を定量的に評価することが可能になります。この加重採点方式は、提案を受ける側のクライアントなどが複数の提案内容を比較・検討する際に定量的に数値化し選別する際に利用されることがある方法です。
社外向けの提案で自社の提案を数値化する意味はありませんが、社内向けの企画立案を上層部に提案する際に客観性を訴求する上で判断を仰ぎやすくし意思決定を進めるのに効果的な手法です。
評価軸 | 加重点 | 選択肢A(5段階) | 選択肢B(5段階) |
---|---|---|---|
1.緊急性 | x1 | 4 | 2 |
2.実現性 | x1 | 3 | 2 |
3.収益性 | x2 | 2(4) | 3(6) |
4.将来性 | x2 | 3(6) | 4(8) |
合計点 | 17 | 18 |
優先順位を可視化するフレームワーク:スコアリング・マトリックス
採点方式以外で、選択肢に簡易的な優先順位をつける方法も紹介します。横軸に時間(Time)と縦軸に費用(Cost)の2軸による4事象の簡易的なスコアリング・マトリックスで優先順位を可視化させます。
このマトリックスの特徴は、各アイデアに対して2軸の評価軸で採点を施すことで優先順位を可視化してアイデアに優先順位を付けて客観的に選別することが可能になります。
メリットは、先述の採点方式で多様な初期アイデアを絞り込んだ後でこのマトリックスで最終の選考を行うことで意思決定をスムースに進められる点です。
特に社内会議の合意形成では、最初に数値化でアイデアを絞り込み最終的な選択枝をマトリックスを利用して視覚的に優先順位を示すことで、参加者に不要な思考を使わせずに客観的な意思決定に集中した決断を進める効果が期待できます。
複数のアイデアを評価や優先順位を付けるには、表やマトリックスなどで視覚化して比較検討の判断時間を短縮し意思決定を進める。