ノンデザイナーにおけるデザインリテラシーとは、単なる装飾や表現力などの感性ではありません。むしろ、物事を解釈する力や伝達力、そして、創造力として必須なビジネスのスキルであり、「知識」としてのハードスキルのことです。”リテラシー“とは、特定分野の知識を活用する能力のことを指します。
例えば、社内や周囲との伝達業務や意思決定分における資料作成にデザインの基本知識を身につけることで、円滑な意思疎通を導くコミュニケーション能力としても期待できます。
また、WEB制作や会社案内、ポスターなどのデザイン制作を外部のデザイン会社へ依頼する際も、基本のデザイン理論を理解してコミュニケーション取ることで期待通りの成果物を最低限のやり取りで得る可能性も高まります。
今回はデザインの良し悪しを判断する、デザインリテラシーのポイントを中心に解説していきます。キーワードは、「デザインの判断軸」です。
ビジネスに必要なデザインリテラシーの本質とは
ビジネスに不可欠な視覚的コミュニケーション能力
デザインを制作会社へ発注し、できあがったデザイン案を決定する際に、社内調整で予想以上に時間が掛かったり、意見が分かれることがあります。
例えば、担当者の裁量で当初は採択された場合でも、後に上司や社内から異論が出され白紙に戻ることも少なくありません。
これは主に事前の社内調整や説明が上手く行われていないコミュニケーション不足の意思疎通に起因する問題ではあります。
また、デザインの良し悪しを個人の趣味嗜好である主観で判断することもビジネスの現場で起こります。特に声の大きな人などの発言で決定が覆るような場面も珍しくありません。
ビジネスの意思決定においては論理的で客観的な分析が中心であるように、制作物も客観的に観察し見立てる能力が重要と考えます。それが今回のテーマであるノンデザイナー(一般のビジネスパーソン)におけるデザインリテラシーの必要性です。
もし制作側の窓口となる担当者がデザインリテラシーを身につけていたら、適切な判断軸を基に内部の関係者へ説明することで手戻りの少ない社内調整を取り纏めることも夢ではありません。
また、デザイナーとの共通言語の確立で、より踏み込んだ議論が可能となり、納得のいくデザインの仕上がりにも期待できます。これらは全て、意思疎通を円滑に進めるためのコミュニケーション技術と言えます。
デザインリテラシーとは、客観的にデザインを見定め判断する「判断軸」でもあり、デザインに関わるあらゆる関係者との円滑なコミュニケーションを施す役割
3つのポイントで理解するデザインの本質
デザイン判断力を磨くための実践的アプローチ
ビジネス教養としての基本の平面デザイン
デザインの理解を深めるために、ノンデザイナー向けにデザイン原則を解説した「ノンデザイナーズ・デザインブック」 の書籍で、4つのデザインの基本原則として、”コントラスト“、”近接“、”反復“、”整列” を挙げています。
本稿では、制作における平面構図の良し悪しを判断するために「1.デザインコンセプト」、「2.レイアウト」、「3.コントラスト」の3要素に整理し、平面デザインを評価するためのポイントを解説していきます。
まずデザイン判断基準の1つ目は、デザインの目的や方向性を言葉で表す「デザインコンセプト(指針)」。2つ目は、視認性を高め躍動感やリズムを生む情動性と認知向上に影響を与える情報設計としての「レイアウト(配置)」。そして最後の3番目は、情報構造上の関係性や視線誘導を補足する「コントラスト(強弱)」を解説します。
この3ポイントを意識することで、感覚的にデザインの良し悪しを判断するのでなく論理的にデザインを読み解く識別眼が身に付いていきます。
平面デザインを判断するための主な3ポイント | 役割 |
---|---|
1. デザインコンセプト(指針) | デザインの方向性を言語化 |
2. レイアウト(配置) | 視認性に配慮し情動性の訴求や読みやすさへの配慮 |
3. コントラスト(強弱) | サイズや形状などの強弱による情報の優先順位や視線誘導 |
デザイン原則を意識するようになると、自身で資料作成する際に読みやすい書類にも応用できる
1. “言葉のデザイン”「デザインコンセプト」
デザイン制作の初期工程
一般的にデザイナーがデザインを構築する場合、デザインを起こすための準備工程が存在します。例えば、ロゴマークやWEBサイトなどのデザイン制作では、1.ヒアリング、2.デザインリサーチ、3.コンセプト設計が初期工程となります。
ヒアリングで現状の問題点を整理して課題を抽出しビジネス要件を整理し、デザインリサーチで競合他社やその他の業界のデザイントレンドを整理し関連性を把握しながらデザインのコンセプトをあぶり出します。さらに、想定ターゲットの認識合わせもクライアント側と行います。
これら内部要因(ビジネス要件)と外部要因(市場・トレンドなど)の課題を基に、デザイン指針となる「デザインコンセプトの設定」を最初に打ち立てます。
※競合プレゼンなどで、デザイン提案までが短期間の場合、1.ヒアリング、2.デザインリサーチの代わりに仮説でデザインの方向性となるデザインコンセプト設計を行う場合もあります。
広告宣伝に関連する制作の場合は、広告を掲載する媒体の特徴や想定ターゲットに合わせた方向性の擦り合わせが重要になります。
洋服で例えるならば、ビジネス、カジュアル、または、フォーマルなど場面や状況のTPOに合わせたスタイルの調整が求められるように、デザインも掲載媒体や目的に合わせたデザインのスタイル調整が必要になります。
デザインコンセプトとは、この問題を解決すべきスタイルを含む概念であり方向性を担います。
問題解決の方向性を示すデザイン
デザインとは、単なる表層の装飾だけでなく、企業の想いや目的に合わせて適格に伝達するコミュニケーション手段であり問題解決のための施策です。
デザインコンセプトは、配置や配色、フォント選択の意図を言語化した指針です。競合プレゼンの際にこのコンセプトを比較・検討することで、以下の点を最初に判断できます。
- クライアント側の意図とのズレの有無
- デザイナーのデザイン課題に対する理解の深さ
そのため競合プレゼンでは、各制作会社にデザインコンセプトを用意してもらいデザインの意図を文章でも説明を依頼します。
それにより、深く錬られた課題解決としてのデザインか、表層の装飾性に傾倒したデザインか最初の判断材料が見えます。
参考コラム:「クリエイティブ ブリーフ」の準備 (クリックで表示)
クライアント側の会社組織がある程度の規模になると、プロダクトマネージャーやマーケティング部門でマーケティングメッセージを既に用意している場合があります。
その詳細となるクリエイティブ ブリーフを制作会社に事前のオリエンテーション(説明会)で渡すことで、ブランドイメージなどの理解を推進しデザインにおける齟齬を防ぐ役割があります。
クリエイティブブ リーフが存在しない場合は、既に企業ロゴなどのVI(ビジュアル・アイデンティティ)やその意味や配色に関するCI(コーポレート・アイデンティティ)など自社のブランド・ストーリーに関する背景や詳細をデザイナーへ伝え、制作物の方向性がブレないように配慮します。
次項から、視認性と情報整理のための配置ルールを解説していきます。