「社外向け提案書」で相手の意思決定を促す極意|コンペ提案の勝利の方程式 Pt.3

目次
意志決定に影響する判断材料となる評価軸や優先順位の付けたのスコアリング・マトリックスを紹介。
判断に必要以上に時間を掛けないように評価方法を設けるなど決断に集中する流れを構築する。

意思決定の落とし穴「心理的バイアスの影響」

最後に、意思決定に影響を及ぼす主な2つの心理的な認知バイアス(固定概念/思い込み)を理解し、その対策を見ていきます。

組織に潜むビジネス判断を左右する「認知バイアス」の種類

組織内において、意見交換や意思決定の際に集団と個人の心理で注意すべき「バンドワゴン効果」と「同調バイアス」の2つの認知バイアス(偏見/先入観)を紹介します。

1.「バンドワゴン効果」の特徴と留意点

1つ目は、バンドワゴン効果です。流行や成功体験などの評判が個人の確証に影響を与え同調する傾向が特徴です。自身の判断を肯定的に捉えるための「成功にあやかる」心理とも考えられます。

具体例では、ある会社が導入したツールやシステムの導入事例で「業界の導入実績」で評価の高いものを自社でも選ぶ傾向や、アプリの人気ランキングを参考にダウンロードする傾向など多くの支持を得ている状態に乗じる傾向です。

バンドワゴン効果のマイナスの影響は、イノベーションの発動や批判的思考など反証が阻害され画一的な意思決定により、リスクや代替案の検討が不十分になる傾向がみられます。

対処法として、検討チームに異なる部署、経験、年次の人材を意図的に混在させたり、匿名でフィードバックできる仕組みを設けるなど、画一的な意思決定が行われないように配慮します。

バンドワゴン効果を利用した提案時の留意点は、例えば、環境問題やエコロジーなどの一般的に引きの良いテーマを企画に取り入れても、新たな視点を設けたストーリーが描けていないと新鮮味に欠けた平凡な印象を与えかねます。

言い換えれば、流行のトピックを用いた企画は、十分に練り込んだアイデアに発展・進化をさせて差別化する工夫が必要になります。

2.「同調バイアス」の特徴と留意点

2つ目は、同調バイアスです。周囲の意見に個人の意志とは異なる行動や選択を受動的に選ぶ心理です。特徴としては、協調性や人間関係を円滑にする一方、個人の思考や意志が薄弱化して独自の意見が生まれづらく個人の責任感や使命感が低下する傾向も起こります。

具体例では、会議で反対意見を抱いていても多数派の意見に合わせて黙ってしまう場合や、他者の意見に合わせることで孤立を避けて安心感を抱く状況などが挙げられます。

対策として、発言者と意見を分離する会議の進行を検討します。例えば、ポストイットを壁に貼り付けて意見内容をグループ化する仕組みや紙に書いたアイデアをグループ内で回してアイデアを深めるブレインライティングなどの仕組みで強制的に一つの意見に固執しない環境を作る方法などもあります。

2つの心理の違い

両者とも外部の影響を受ける心理ですが、バンドワゴン効果は能動的な世論への同調、同調バイアスは受動的な外圧への順応という違いがあります。

承認者を「取り込む」心理戦略

対策1:バンドワゴン効果の心理を再解釈する

提案する側におけるバンドワゴン効果の影響は、先述した汎用的なアイデアに陥る傾向です。例えば、クライアントからの与件で人事部門で社員の評価制度にAI導入を検討し企画提案を求められたとします。

競合他社も参加するコンペ形式の場合、そのままAIを活用したストーリを検討しても似通ったアイデアが出そろう可能性が高くなります。

そこで、なぜAI導入が人材の評価制度に必要か課題を多角的に再考します。論点が人事評価の時短などの効率化であるのか、問題の本質を洗い出します。

それにより、AI導入が課題解決の本質となりえるかを問い直して、検証した内容と根拠を提案に落とし込みながらAIのメリット・デメリットを踏まえた提案のストーリーを構成します。

例えば、「双方向性」を重視したAIトレーニングプラットフォームを企画して、社内のベテランと新人がオンラインでAIを介して緩やかに繋がるフィードバック型の人材育成プログラムなどを検討します。

AI主導の提案から暗黙知の共有システムとしてナレッジシェアなどにも活かせる仕組みをAIを介して貯める企画として提案します。AIによる効率化だけでない、「育成効果の向上」をアピールし差別化や独自性を試みます。

単なるAIありきの専門性や技術的な訴求勝負から、クライアントの課題の本質と丁寧に向かい合う姿勢を示すことで信頼からも差別化を醸成する戦略です。また、クライアントの抱くバンドワゴン効果の心理をゼロベースで再考させるゲームチェンジャー的コンペの戦い方にも繋がります。

この他に、バンドワゴン効果を逆手に取った企画提案の例では、

対策2:同調バイアスに先回りした予防と対策

企画提案における同調バイアスの例では、声の大きい承認者の一声で意思決定がひっくり返ることが起こります。まずは、提案する組織文化の同調性バイアスがポジティブな調和を重んじる文化として根付いているか、ネガティブで閉ざされている組織文化によるかで提案スタイルを変えます。

前者のポジティブな組織文化の場合は、多数の賛同と合意を得られるよう論理的で客観性ある提案の構成を心がけます。例えば、提案の構成としてアイデアのメリットだけでなく、デメリットも隠さずに掲げそれに対する対策も合わせて提示します。

前述の加重採点方式やスコアリング・マトリックスなどで提案内容を第三者視点で客観的にまとめる方法も効果を発揮します。これにより、提案内容の潜在的な論点を明らかにすることで、企画アイデに対する余計なあら探しで提案が紛糾しないよう予防線を張ります。

そして、企画が全社のメリットとなりえるよう部署を横断した成果を生み出す点を強調して社内の不満要素を和らげ組織全体の調和で同意を得やすい状況を創出しておきます。

後者のネガティブな組織文化の場合策は、承認者や声の大きな人物を事前に特定できたらその人の潜在的な価値観に沿う企画のストーリーを見立てた提案を用意します。

例えば、承認者が実はデジタル関連の仕組みに懐疑的な反応がある情報を得た場合、無理にメリットを押しつけるのではなくアナログ的なアプローチとデジタルの融合で課題解決の有効性が見い出せる企画を検討します。

例えば、承認者がデジタル関連の仕組みに懐疑的だと分かった場合、メリットを無理に押しつけるのではなく、アナログ的アプローチとデジタルの融合による課題解決の有効性を示す企画を検討します。そのために、事前のクライアント側の担当者との密接なヒアリングや関係構築も必要です。

さらには、提案内容に見合う他社事例を付けて「勝ち馬に乗る」バンドワゴン効果をここでは逆手に活用して判断を短縮させ意思決定へ意識を集中させる対策もあります。特に声の大きく他人の意見に懐疑的な人は、客観的で第三者の成功体験に対して耳を傾ける傾向が見られます。

まとめ

承認側の検討時間の負荷を軽減させる

2023年4月の米国ORACLEの調査によると、ビジネスリーダーの85%が意思決定に関わるストレスを経験し、75%が膨大なデータの信頼性の欠如により意思決定を躊躇したことがあるという結果が示されています。

ビジネスにおけるAI活用のメリットは、状況を判断をする時間を短縮させて意思決定の集中し決断や行動に時間を注げる点です。

今回は人が意思決定を下すプロセスの全体像を理解した上で、思考プロセスにおける心理的要素で気を付けるべき点を見ていきました。

特に企画提案では、承認側の検討時間となる判断の時間を短縮する情報整理や適切な判断材料の提示や理解を補足する図版などの工夫は判断力を補完する効果が期待出来ます。

また、企画提案で承認側に判断の負荷を軽減し迷いを払拭するには、どのような情報が必要になるかを問い続ける姿勢が必要となります。

総括:企画提案で判断と決断を早める要因
  • なぜそのアイデアが必要か判断材料となる有用性信憑性、費用単価の妥当性などの論拠を提示し意思決定を推し進める
  • 提案に視覚的な判断基準を設けることで、承認側の判断力を補い、意思決定に集中できる状況を作り、決断を加速させる
  • アイデアを評価や優先順位を付けるには、表やマトリックスなど図版で視覚化することで比較検討が進む
  • 意思決定を阻害する要因として集団と個人の心理を理解し、合意形成を補う
  • 企画提案では、判断の負荷を軽減させ迷いを払拭させるには何が必要かを問う姿勢が必要

参考文献&WEB

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ビジネスの判断力と意志決定力は非常に重要な行動。提案業務においては承認側の心理と思考負担を軽減する配慮が意志決定を進める。

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