デザインを依頼する時のコツとポイント|失敗しないデザイン発注の教科書 Pt.1

アイキャッチ画像|上空撮影によるテニスコートに横たわり、自転車に乗っているように見せているだまし絵|デザイン発注の教科書|
デザイン依頼で迷走しないための情報整理とは?

デザイン発注で「思っていたのと違う」と困惑した経験はありませんか?

多くの企業が直面するこの問題の最大の原因は、発注時の『曖昧な指示』にあります。「かっこいい」「親しみやすい」といった主観的な表現は、デザイナーと発注者の間で全く異なる解釈を生み出し、結果として期待値とのギャップを生んでしまうのです。

しかし、適切な情報整理と指示書の準備により、このギャップは劇的に改善できます。本記事では、実際に多くの企業が成果を上げている3C分析を活用した手法をご紹介します。

目次

デザイン発注成功の鍵:情報整理と指示書作成のステップ

丸投げデザイン依頼の落とし穴

外食に出かける際にお店を決める場合、予算やお店の情報などを比較検討するでしょう。はじめて訪れるレストランで、「シェフのおまかせメニュー」を注文するのは、ちょっとした冒険かもしれません。しかし、これをデザイン発注に置き換えると、リスクは一気に高まります。

デザインを検討する発注の現場では、このような「おまかせ」依頼が意外と多く起こるのも事実です。この背景にある理由としては、プロであるデザイナーが考え出すことがデザイン提案と考える発注側のある意味、期待とも推測します。

デザイン指示書の重要性

理想では自分がどうしたいのかを事前に少しでも整理して伝えた方が、満足する結果を手に入れる可能性は高くなります。しかし、デザインを発注するにあたってほとんどの人はイメージが上手く湧いてこない場合が多いでしょう。

このような場合、デザイナーに十分な理解とイメージを持ってもらうには、発注側による情報整理が重要な鍵となります。適切なデザイン指示をするための具体的な方法を解説します。

デザイン指示書の作成準備

3C分析を活用したデザイン方向性の決定方法

WEBサイトや企業ロゴ、カタログなどは、狙うべき市場やターゲットに対して自社の存在をどのように伝えたいか(どう印象付けたいか)、まずは自社分析することから始めます。

それを実行するための情報整理の枠組みであるフレームワーク分析の手法一つである”3C分析“を紹介します。因みに3Cとは、ビジネス環境を構成する以下の3つの軸から状況を分析します。

  1. Customer:顧客・市場の戦略分析
  2. Company:自社内部の戦略分析
  3. Competitor:競合他社との戦略分析

このフレームワークは、大前研一氏が80年代初頭に企業戦略のために考えたもので、顧客を中心に本来は自社の提供価値の競争性を明確化するための枠組みです。現在ではマーケティング分析などにも応用されています。これをデザインを依頼するための基本情報として活用します。

STEP
ターゲット顧客の明確化と構造化

自社の商品やサービスの購買者であるコアターゲットの選定、および、必要に応じてその決定を左右するサブターゲットなどのターゲットを構造化します。それは誰に対する商品、サービスであるかを明確にすることです。可能であれば、想定ターゲットの悩みが何であるかを仮説で構わないので仮定しておくことも、デザイン構築のみならず、サービス開発・改善の際に役立ちます。

デザインの方向性を確認する場合において、一旦は、顧客構造の整理に集中することで構いません。特にターゲット選定においては、自分たちが想定する利用者像と実際の購買決定者が異なる場合もあります。例えばファミリー層が車を購入する場合、妻が購買決定に関わり夫が主な利用者という差違が出る場合があります。

ビジネスの戦略分析では、この最初の顧客分析とPolitics (政治)、Economy (経済)、Society (社会)、Technology (技術)の4つの観点(PEST分析)より、その課題の検証に利用します。

STEP
自社ブランドの輪郭を明瞭にする:自社ミッション、ビジョン、バリューを考える

ビジネスの戦略分析では、ひとやモノなどの経営資源の分析を施します。その中で自社WEBサイトや企業ロゴ、会社案内など営業資材は、自社ブランドをデザインに起こすための情報を整理します。

例えば社名の由来、起業理念(=ミッション)の背景、社会に対する自社の役割(=ビジョン)などを含めて整理した情報をデザイナーへ渡します。特に理念は、短く抽象的な表現が使われがちなため、補足情報を用意することでデザイナーの理解を深め新たな発想のきっかけにもなります。

また製品やサービスの広告制作の場合、自社の優位性や価値(バリュー)を可能な範囲でまとめます。その時の留意点は、その根拠となる数値化した定量データなどで客観的に分析して思い込みをできる限り取り除きます。その結果、顧客に対する真の価値や優位性が見いだせます。

ミッションビジョンバリューは、ブランド構築の重要な支柱である企業の物語となりターゲットを惹きつける役割となります。

STEP
競合他社を選定

想定する競合他社、また、意識する異業種からも各3社程を選定し、その理由も書き起こします。これによりデザイナー側は、他社とのビジュアル面における差別化のイメージを持ち易くなります。

敵(競合他社)を知ることで、自社の立ち位置や振る舞いを明確にします。

デザイン指示書の有効性

意思決定の確立と誤認の緩和

このように、対象を見据え己を知り、敵を知ることでセルフイメージの棚卸しができます。結果、デザインの方向性における判断基準が確立され、後に意志決定の揺らぎを軽減出来る効果を期待できます。特に発注側が文章に起こすことで自社側だけでなく、制作チーム全体でもいつでも振り返りが可能となり、共通認識が維持しやすくなります。

ここで説明した3C分析を活用したデザイン依頼の情報整理は、以前より外資企業/外資系広告代理店などがチーム内で意思疎通を図るためにクリエイティブ・ブリーフィングとしてプロジェクトの背景や目的を文章化してチーム共有のツールとして活用していました。

また、システム開発のコンペで参加ベンダーに配布する提案依頼書(Request For Proposal:通称RFP)などにも類似していますが、共通することは書面化することで口頭伝達による抜け漏れや「伝言ゲーム」の誤認を防ぎます。

体裁は特に決まりはありませんが、A4一枚ほどに箇条書きで上記3要素を記載して、視認性を高め理解し易い文面を心がけておきます。

一部の広告代理店の営業やクリエイティブディレクターなどは、事前にクライアントの情報をネットなどでリサーチしおおよそ理解してから訪問することもします。

しかしスタートアップや中小企業などで情報が不足している場合などが考えられます。最低限でも、想定ターゲット像、自社の現状や今後の展望、そして想定する競合などを明文化した情報を用意しておくだけでも制作チーム側との意思疎通が明瞭かつ短縮でき共通認識を設けられます。

おわりに

あなたのビジネスを変革する、デザイン発注の新しいスタンダード

デザイン発注における情報整理は、単なる事前準備ではありません。それは、あなたの事業の本質を見つめ直し、競合他社との差別化を明確にし、顧客との真の接点を発見する戦略的プロセスなのです。

3C分析を活用したデザイン指示書の作成は、一見すると時間のかかる作業に思えるかもしれません。しかし、この投資により得られるリターンは計り知れません。明確な方向性により、制作期間の短縮、修正回数の削減、そして何より、あなたのビジネスの真の価値を顧客に伝えるデザインの実現が可能になります。

まずは、あなたの顧客は誰なのか、競合他社との違いは何なのか、そして自社の真の価値は何なのかを1時間かけて書き出してみてください。その小さな一歩が、あなたのビジネスの大きな変革の始まりとなるでしょう。

次回のPt.2では、実践的なアプローチをお伝えします。

まとめ:【デザイン依頼のポイント】
  • 制作を依頼する時には、曖昧な表現を避け、具体的かつ客観的な文章による情報を提供
  • 「想定ターゲット像」、「自社の理念と展望」、「想定する競合」の3要素をデザイン制作側と共有し目指す方向性を確立
  • 発注側の補足情報を整理することで、制作側には誤認を防ぎ、かつ発注側は判断基準が明確になり両者にメリットが生まれる

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