マルチアングルな複眼思考で洞察力を高める

アイキャッチ画像|マルチアングルをメタファーとするプリズムのメガネレンズ|デザイン思考やアート思考などマルチアングルの複眼を活用した発想法を解説します。
固定概念を払拭する創造的な観察眼を得るための複眼思考の技術とは?

マルチアングルという言葉は、もともとは映像業界で使われる用語で、複数のカメラを使用して様々な方向から撮影する技法です。

カメラの撮る角度(アングル)が変わると受け取る情報の質や量も変化し、人物描写では引きと寄りを組み合わせて心情描写や話の背景を暗示させる技法などもあります。

複眼で物事を捉える視点を変える利点は、問題解決や新たな発想を呼び込む時などに役に立つアプローチになります。今回は、この複眼思考のポイントを解説していきます。キーワードは、『意味の再解釈』です。

目次

複眼による思考の拡がり

洞察を支える視点のスイッチング技術

円錐という形は、真横から正対して見ると2等辺三角形、上から覗くと円の形状をしています。円錐として認識するには、その対象を複眼で俯瞰してはじめて認識が可能になります。

視点・視座・視野を説明したイラスト図:円錐を捉える視点の位置で見える形状は変化する
円錐を捉える視点の位置で認識する形状は変化する

人によって物事の捉え方や解釈は千差万別で、固定された視点で一側面だけを捉えても全貌を把握できずに本質を見誤る可能性が生じます。

思い込みや固定概念に縛られたり、斬新なアイデアが思いつかない時にあえて視点を変えて視野を拡張することで新たな発想の糸口が見えることがあります。

特に問題が起きた時に「何をすべきか」という事象の対策へ意識が向きがちですが、それが「何を意味するか」という事象の洞察を深めることで取り組むべき論点へ深められます。

これを「視点のスイッチング効果」と考えます。その視点変換によって対象の解釈が変わる仕組みについて見ていきます。

新い発見を促す視点

主観と客観の関係性

「同一事象のパラレルワールド」

19世紀のサイレント映画で世界的に有名な喜劇役者で映画監督でもある英国のチャップリンに以下の名言があります。

人生は、近づいて見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ

Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.

チャールズ (チャーリー)・チャップリン:1889年-1977年
P.D Jankens, Public domain, via Wikimedia Commons.
P.D Jankens, Public domain, via Wikimedia Commons

物事を主観的にで捉えるか客観的に見るかで、同一世界の解釈は大きく変わります。例えば、財布を忘れて買い物に出かけてレジで慌てる当人と周囲の人における解釈は異なります。

レジの店員から見たら、懸命に財布を探す様子に同情の念やレジ待ちの列を気にして困惑の気持ちを抱くかもしれません。また、この話を後に知り合いの立場で聴いている側では笑い話と感じるかも知れません。立場や見方、時間経過で事象の解釈や印象が変化することは「同一事象のパラレルワールド」と言えます。

思い込みという主観の足かせ

例えば、クライアントの担当者と取り組むべき課題を討議する際、業界に長く在籍していると斬新な発想を否定的な観点で評価されるケースがあります。

特に過去の成功体験や業界の慣習が足かせになり、新たな事業開発を進めるにあたり外部から専門家の知恵を借りようと招集しても最終的な提案が実行されないケースが起こります。

洞察を促す「認知的共感」というレンズ

そう成らないためには、話合いを進めるにあたり思い込みや早計な判断は一旦、脇に置いて目前の事象や他の意見と向き合うことが必要になります。それは、他の意見に同調や賛同する意味ではありません。ただ、他人の考えを認知し理解を試みます。

これは、心理学で「認知的共感」と言いわれ、医者や弁護士などが実施する他者を理解するための共感のスタイルです。それにより、「こういう考えの存在がある」ことを客観的に知ることで相手への洞察を深める方法でもあります。これは、主観を排除して新たな心持ちで新たな気づきや発見を芽生えさせる切っ掛けにもなります。

「引き」と「寄り」の情報整理

論点の解像度を上げる技術

人物デッサンで全身を描く時、特に慣れていない人に共通する描き方があります。それは、いきなり細部から描き出して全体の構成のバランスが収まらない現象です

全体をバランス良く描かなければならないのに、いきなり手先や目、鼻などの細かいところから描写して全体構成が収まりが付かなくなる傾向です。つまり、対象に向けた近視眼的な行動による視野の狭まりが起こります。

デッサンに慣れていると全体構成を把握し、外から内の視点移動を反復させながら描き直す手法をとります。これは「引き:ズームアウト」と「寄り:ズームイン」の視点変換で対象の構成バランスを認識と修正を繰り返しながら全体像を的確に把握する技術です。

これは、問題解決などで論理的な思考プロセスの初期段階にも共通します。この「引き」と「寄り」のピント合わせの焦点調整で、取り組むべき問題設定の論点や問題の解像度を高める情報整理に役立ちます。

筋の良い論点を浮上させるサイクル

具体的には、はじめに問題の全体像を捉えるために「引き」で周辺の情報も包括的に観察します。次に「寄り」で細部を見据える視点へ移動します。

最初の客観的な「引き」の視点から全体を認知しつつ「寄り」の視点で気になる点を内発的な「問い」を立てながら観察を遂行します。この「問い」のサイクルから仮説を導くことも出来ます。

これは事象に対する適切な問題設定を浮かび上がらせ「観察」、「問い」、「仮説」のサイクルで洞察を深める思考のプロセスとなります。

実際の問題解決では、プロセスの順番は特に重要ではなく慣れてくると仮説から開始することも可能になります。ポイントは、筋の良い仮説をどれだけ早く立てられるかが重要になります。

観察における「問い」と「仮説」を繰り返して発見へ導く検証サイクルのイラスト
観察の構造と検証サイクルのイラスト
ポイント

思考が行き詰まった時に、「観察」、「問い」、「仮説」のどこからでも思考を揺さぶり発想を活性化させる

近視眼的な思考の罠

これに対してよくある問題解決の失敗パターンは、前述した思い込みや早々な評価などの近視眼に陥ることです。これは、全体像を見据えない状況で対策を検討しても問題の本質を見失い、筋の良い論点を見い出せずに予定調和でありきたりなアイデアに帰結してしまうことです。

よく会議で起こりるのが、枝葉末節な対策などの話に終始して時間を使い果たして明確で適切な結論が出せないケースなどです。このような時に、「引き」と「寄り」2軸で取り組むべき論点のピント調整を反復しながら、包括的に思考を拡張することが深い洞察に役立ちます。

複眼思考の実践

洞察を深めるための複眼で物事を捉える方法の例や新たな解釈でユニークでイノベーション的な発想例などを紹介していきます。

二項対立の分析

複眼で発想するブレストの例として、「二項対立の分析」という相対する二つの視点軸で物事を考えることで表裏、矛盾や対立などの一対の相関関係で自動的に複眼思考で発想を促す手法があります。

コツとしては、アイデアの発想が手詰まりになった時、1つの視点に新たな観点を掛け合わせたり反対の視点で捉え直したりして新たな問いを立てるのに活用します。特にアイデア自体を飛躍させたい時は、意外な組み合わせを選び出すことで新たな発見が期待できます。

二項対立の軸の例を挙げると「全体・部分」、「長期・短期」、「メリット・デメリット」、または属性軸で「男・女」などの切り口があります。具他的な二項対立の進め方は以下の記事にて解説しています。

意味の解釈による成功事例

ビジネス書でよく取り上げられる事業の再解釈による成功事例では、スターバックスが高品質のコーヒー販売だけでない職場や自宅以外の気軽に人々が集える「サードプレイス」というコミュニティとなる場の提供を事業コンセプトに掲げて成功した事例はご存じの方も多いでしょう。

また、米国の鉄道産業が自動車や航空機産業の振興で衰退した要因に、当時の経営陣が鉄道業を単に物や人の「輸送業」と位置づけた事例はマーケティング理論の大家であるセオドア・レビットの論文「マーケティング近視眼」の中で取り上げられ今も複眼思考で事業の再解釈の重要性を語る上で有名な事例です。

茶の湯の変革者:千利休のケース

スターバックスと同じ喫茶行為の再解釈の国内の事例では、室町時代に貴族などの間で唐物の美術品を中心に愛でてる茶会を、村田珠光より始まり武野紹鴎に引き継がれ、そして、千利休により完成させた簡素な環境で精神的な場を求める「侘び(わび)茶」の例があります。

「意味の解釈」においての千利休の役割は、名物を尊ぶ既成の価値観を否定における禁欲主義や簡素な趣、経年変化や寂しさを美しいと感じる心の動きとなる美意識へ変革し伝導した茶の湯の総合プロデューサーの働きでした。

「不足の美」などは、未完成の姿にこそ愛でてる価値を見出し侘び寂びを深く味わう装備品から空間や作法を考案しました。旧来の高価な唐物道具に傾倒する様式から自身の見立てにより、身の回りの日常品を応用すれば誰でも創意工夫することで茶を楽しめる行為へと茶の湯を再定義しました。

ダイソンのケース

ダイソンの掃除機の開発では、当時の家電品は白などを基調とし目立たない印象の製品が主流で利用後は押し入れなどにしまう利用が一般的でした。その中でダイソンの掃除機の開発はインテリアとしても生活空間に合うデザイン配色で差別化を図ります。

また、従来の掃除機はダスト容器は集積されるゴミは見えない容器の仕様でした。消費者はゴミを目にする事に生理的な嫌悪感を抱くとの業界の思い込みが存在しました。

しかし、中身の見える透明な容器にして敢えてゴミが貯まる様子を可視化することで吸引性能の良さと掃除行為に「こんなにゴミを集められた」というユーザー体験における満足感を提供することで他社製品に無い付加価値を見出し差別化に成功しました。まさに、マイナスな清掃行為をポジティブな印象へ再解釈させた例です。

まとめ

発想を拡張させる仕掛け

私たちは、過去の経験などから物事を判断をする傾向があります。マルチアングルな複眼思考で事象を見直すことで、日常の出来事も異なる側面や新たな解釈が存在することに気付かされます。

それはカメラのレンズのように、「引き」と「寄り」を繰り返しピント調整をすることで意識しなかった思考の死角を浮かび上がらせ、新たなアイデアの糸口の発見に繋がります。

アイデア出しのブレインストーミングなどで行き詰まった時、論点の焦点が偏っていないか他の解釈ができないか検討してみてください。新たな着想を見い出す視野が拡がるかもしれません。

まとめ:【マルチアングルの複眼思考とは】
  • 正しくものごとを捉えるために、マルチアングルな複眼で論点の誤認を回避する
  • 主観と客観の視点の取り方によって、ものごとの解釈は変化する
  • 「引き」と「寄り」の複眼的な思考の反復により固定概念を削ぎ落とす
  • アイデア会議では、意見と発言者を分離させる仕組みを設け対立を回避する
  • アイデア出しの初期は、質より量を意識し早計な判断を行わない
  • 垂直的な視座と、水平的な視野のピント調整を繰り返し論点の解像度を高める

参考文献

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