WEBサイトやカタログ、ロゴデザインなどデザインを外部の会社に発注する際、意図した方向でデザインを制作してもらうのに苦労する方も居るかもしれません。
伝え方で「かっこいい」や「親しみやすい」などの曖昧な表現は、人により解釈も異なり期待する成果物とズレが出てくる可能性もあります。また求める印象以前に、自社がどのような存在であるか自己分析し適格に発注側へ伝えることがデザイン発注の失敗しないための重要なポイントとなります。
第一回目は、依頼側で満足いくデザイン提案を受けるためのデザイン指示書の準備ポイントを紹介します。
情報整理とデザイン指示書の準備
丸投げデザイン依頼の落とし穴
ランチに何を食べようか迷う時に、食べたい物が思いつかない場合は予算か、もしくは人気店の情報など何か意志決定になる判断基準を考えるかと思います。初めてのレストランに入って「シェフおすすめメニュー」を注文するような冒険は、デザイン発注ではリスクが高か過ぎる行為です。
しかしデザインの現場では、このような発注が意外と多いのも事実です。この背景にある理由としては、プロであるデザイナーが考え出すことがデザイン提案と考える発注側のある意味、期待とも推測します。
デザイン指示書の重要性
理想では自分がどうしたいのかを事前に少しでも整理して伝えた方が、満足する結果を手に入れる可能性は高くなります。しかし、デザインを発注するにあたってほとんどの人はイメージが上手く湧いてこない場合が多いでしょう。
その様な場合は、デザイナー側に理解やイメージを深めて貰うために自社側の情報整理が鍵になります。この様な情報の棚卸しであるデザイン指示書の具体的な方法を説明します。
デザイン指示書の作成準備
3C分析による自社分析で方向性を明確化する
WEBサイトや企業ロゴ、カタログなどは、狙うべき市場やターゲットに対して自社の存在をどの様に伝えたいか(どう印象付けたいか)、まずは自社分析することから始めます。
それを実行するための情報整理の枠組みであるフレームワーク分析の手法一つである”3C分析“を紹介します。因みに3Cとは、ビジネス環境を構成する以下の3つの軸から状況を分析します。
- Customer:顧客・市場の戦略分析
- Company:自社内部の戦略分析
- Competitor:競合他社との戦略分析
このフレームワークは、大前研一氏が80年代初頭に企業戦略のために考えたもので、顧客を中心に本来は自社の提供価値の競争性を明確化するための枠組みです。現在ではマーケティング分析などにも応用されています。これをデザインを依頼するための基本情報として活用します。
自社の商品やサービスの購買判断をする決定者であるコアターゲットの選定、および、必要に応じてその決定を左右するサブターゲットなどのターゲットを構造化します。それは誰に対する商品、サービスであるかを明確にすることです。可能であれば、想定ターゲットの悩みが何であるかを仮説で構わないので仮定しておくことも、デザイン構築のみならず、サービス開発・改善の際に役立ちます。
デザインの方向性を確認する場合において、一旦は、顧客構造の整理に集中することで構いません。特にターゲット選定においては、自分たちが想定する利用者像と実際の購買決定者が異なる場合もあります。例えばファミリー層が車を購入する場合、妻が購買決定に関わり夫が主な利用者という差違が出る場合があります。
ビジネスの戦略分析では、この最初の顧客分析とPolitics (政治)、Economy (経済)、Society (社会)、Technology (技術)の4つの観点(PEST分析)より、その課題の検証に利用します。
ビジネスの戦略分析では、ひとやモノなどの経営資源の分析を施します。その中で自社WEBサイトや企業ロゴ、会社案内など営業資材は、自社ブランドをデザインに起こすための情報を整理します。
例えば社名の由来、起業理念(=ミッション)の背景、社会に対する自社の役割(=ビジョン)などを含めて整理した情報をデザイナーへ渡します。特に理念は、短く抽象的な表現が使われがちなため、補足情報を用意することでデザイナーの理解を深め新たな発想のきっかけにもなります。
また製品やサービスの広告制作の場合、自社の優位性や価値(バリュー)を可能な範囲でまとめます。その時の留意点は、その根拠となる数値化した定量データなどで客観的に分析して思い込みをできる限り取り除きます。その結果、顧客に対する真の価値や優位性が見いだせます。
ミッション、ビジョン、バリューは、ブランド構築の重要な支柱である企業の物語となりターゲットを惹きつける役割となります。
想定する競合他社、また、意識する異業種からも各3社程を選定し、その理由も書き起こします。これによりデザイナー側は、他社とのビジュアル面における差別化のイメージを持ち易くなります。
敵(競合他社)を知ることで、自社の立ち位置や振る舞いを明確にします。
デザイン指示書の有効性
意思決定の確立と誤認の緩和
このように、対象を見据え己を知り、敵を知ることでセルフイメージの棚卸しができます。結果、デザインの方向性における判断基準が確立され、後に意志決定の揺らぎを軽減出来る効果を期待できます。特に発注側が文章に起こすことで自社側だけでなく、制作チーム全体でもいつでも振り返りが可能となり共通認識が維持し易くなります。
ここで説明した3C分析を活用したデザイン依頼の情報整理は、以前より外資企業/外資系広告代理店などがチーム内で意思疎通を図るためにクリエイティブ・ブリーフィングとしてプロジェクトの背景や目的を文章化してチーム共有のツールとして活用していました。
また、システム開発のコンペで参加ベンダーに配布する提案依頼書(Request For Proposal:通称RFP)などにも類似していますが、共通することは書面化することで口頭伝達による抜け漏れや「伝言ゲーム」の誤認を防ぎます。
体裁は特に決まりはありませんが、A4一枚ほどに箇条書きで上記3要素を記載して、視認性を高め理解し易い文面を心がけておきます。
一部の広告代理店の営業やクリエイティブディレクターなどは、事前にクライアントの情報をネットなどでリサーチしおおよそ理解してから訪問することもします。
しかしスタートアップや中小企業などで情報が不足している場合などが考えられます。最低限でも、想定ターゲット像、自社の現状や今後の展望、そして想定する競合などを明文化した情報を用意しておくだけでも制作チーム側との意思疎通が明瞭かつ短縮でき共通認識を設けられます。
まとめ
デザイン発注時の情報が不明瞭の場合は、満足いくデザイン提案の確率も当然下がり、結果として修正で時間を無駄にしてしまうことは両者にとっても何の得にもなりません。
自社を表すための自己分析と情報整理を行い、その上でビジネスの課題や要望を整理して伝えるだけでプロのデザイナーは、そこから扱うべき問題発見や解決策を導きデザインを構築します。
期待すべきは解決策としてのデザインの内容であり、言わずもがなで意をくみ取って貰らう優れたコミュニケーションを期待するのは得策では無いと言えます。
情報整理やデザイン指示書の作成は発注側にとっては確かに手間で時間も要します。しかし、その手間の分だけ自社側の社内の意思疎通や決定における判断基準が明確となり、デザイン提案側も取り組むべき問題解決のアイデアの発想に時間を注げるためどちら側にもそのメリットが見込めます。
- 制作を依頼する時には、曖昧な表現を避け、具体的かつ客観的な文章による情報を提供
- 「想定ターゲット像」、「自社の理念と展望」、「想定する競合」の3要素をデザイン制作側と共有し目指す方向性を確立
- 発注側の補足情報を整理することで、制作側には誤認を防ぎ、かつ発注側は判断基準が明確になり両者にメリットが生まれる
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