3.演出力のポイント
プレゼン3要素の最後は、影響力などのプレゼンス(=存在感)を醸成する演出のコツを紹介します。ビジネスのプレゼンでは、提案内容だけでなく信頼できる経験豊かなパートとなり得るかにも期待されています。その期待に添う印象を醸し出す「演出力」は、ビジネスでも重要な技術です。
感情に訴えかける要素
コミュニケーションで受け手の感情に矛盾を感じたときに重要視する要素を実験した心理学の”メラビアンの法則“がコミュニケーション技術の注意点の例として頻繁に取り上げられています。
これは伝達手段における前述した、視覚情報(Visual)、聴覚情報(Vocal)、そして言語情報(Verbal)の3要素において聴き手が違和感や矛盾を感じた場合において最終的に重視する要素の順位が、1位「視覚情報:55%」、 2位「聴覚情報:38%」、3位「言語情報:7%」という実験結果があります。
この結果は本来、見た目が全てという第一印象の重要性を立証するということではありません。あくまでメッセージの受け手側が矛盾を感じた場合、最終的な判断材料とする要素を示した実験結果です。
会話の中身よりも”見た目や第一印象が全て”という誤った解釈でないことに留意しつつ、プレゼンでは資料作成だけに気を取られずにこの3要素にも矛盾が生じないように準備を進めます。
伝えるメッセージ(情報)だけでなく、視覚情報や聴覚情報の非言語情報の全体に整合性を持たせる気遣いや演出が重要となります。
イメージの演出
- 服装や身だしなみ
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ビジネスシーンにおいては相手企業の業種や企業文化にもよりますが、服装のスタイルは一昔前では男性の場合はバンカーストライプ(金融系で好まれたスタイル)と言われた濃紺のネイビーストライプのスーツとパワータイと言われる赤系のネクタイを組み合わせる服装がコンサルティング業界のプレゼン時で好まれて着用されていた時もありました。
昨今ではビジネスにおける服装の自由度が増しているので基本は清潔感を意識し、特にシャツやスーツの皺や靴の汚れなどの細部に注意を払います。
当然、髪の寝癖や肩のふけは御法度です。たまに見かけるのはシャツ襟の黄ばみシミや、夏場などはプレゼン最中に汗染みなどが起こる場合を想定してインナーや上着を着用して汗シミを目立たないような配慮を施しす。
またプレゼンを聴く側は、意外と発表者の細かい部分も見ています。例えば指先などは、ジェスチャー中の動作で自然に視界にも入ります。男性も特に、爪や鼻毛など身だしなみの確認は事前に行いましょう。全ては相手に信頼や信用の矛盾を想起させないエチケットであり気遣いです。
- 距離を埋めるしぐさや表情
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相手が話す時は当然、相手の眼を捉えつつ、うなずいて共感を示したり相手との距離を縮める工夫は直ぐに使えるコミュニケーションの基本テクニックです。
もしも批判的な意見を言われても一旦は、相手の話に傾聴する姿勢でうなずいて相手を受け入れてみます。相手との心の間合いを落ち着いて保つことも重要な心構えです。
また適切なタイミングで表情を緩める瞬間をみせれることで、ギャプ効果により相手との距離を近づけるコツにも成ります。堅い雰囲気の中にも人間味を感じさせてひとの懐に入り込む高度なテクニックです。
勿論、不必要な微笑みは誤解を招き逆効果ですが、信頼関係を築く上で威厳をアピールするだけがプレゼンの全てでは無い旨も意識しておきます。
- 演出としての小道具
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プレゼン慣れした印象を持たせる小道具に、一般に利用されているクリッカーというPC上のスライドソフト(power pointなど)を手元で操作できる無線リモコンがあります。小さな個室などであれば、ワイヤレスのPCマウスでも代用ができます。
昨今ではデジタル色を前面に出した印象を演出するために、ノートPCでなくスマフォだけでスライドを管理するプレゼンスタイルでデジタル色を全面に出して先端的な印象を出す演出もあります。
またその逆張りとしてスライド操作はクリッカーなどデジタル色の強い道具を使いながらも、万年筆などでメモを取りながら、年配の役員の方々へ信頼感を醸成する演出などもあります。
ポイントは、状況や参加者の雰囲気や属性に合わせた演出や道具をいくつか準備します。プレゼンの準備とは、このような些細な小道具までも意識しておくことがひとの印象に影響を与えます。
それはある意味、その場の空気を読んでオーディエンスを湧かせる即興性あるDJプレーとも言えます。
全ての演出はどの様なメッセージをどんな様な人たちに伝えるのか、そしてプレゼン環境に合わせて「演出方法」を適切に整えます。
プレゼンの準備と対策
緊張感の克服法
セルフイプロデュースの活用
緊張感とはなんとも厄介な心理現象にて、はじめは人前で喋ることを憂鬱に感じることは誰でもあると思います。
よく耳にする緊張感に対するアドバイスで、「聴衆を人と思うから緊張する。初めは植物や物に語りかけるつもりで話すと落ち着く」なども有名な対策ですが、緊張が止まらないこともあります。
例えば、新人の舞台役者に喩えて考えていきます。台詞を記憶することに精一杯で、間違わずに話すことに意識が向いているとします。
その意識を、芝居の全体構成や観客の反応に向けることで、内面か湧く緊張感を意識的に外に向けます。舞台監督として自分の演技を俯瞰してチェックする感覚です。
最初は全体へ意識を向ける余裕などはないかもしれません。しかし、俯瞰で自分を客観視して捉えることで自分に向かう緊張を緩和させることも可能になります。
コツは、理想のプレゼンのスタイルを思い描く「妄想」を利用して、緊張感を高揚感へ変換させるように演技をしているセルフイメージを抱くことです。言い換えれば、理想のプレゼンスタイルに向けたセルフプロデュースです。
わたしも当初はあがり症でしたが、自分を俯瞰し客観視する意識で緊張感と自己を分離しながら人前で話が出来るように変化していきました。
そのために、”TED”などのプレゼンテーション動画を閲覧して、自分の目指す理想のプレゼンのスタイルを見つけて繰り返し視聴しながらイメージトレーニングもしてきました。
プレゼンに慣れるには場数も必要ですが、理想のプレゼンテーターを見つけてセルフイメージを抱くことで人前で「プレゼンテーションを演じる」ことで緊張感を緩和させる。
第三者による文字校正の実施
資料が整いプレゼン当日までの準備として、ドライ・ランと言われる実際の流れを最初から最後まで通して確認する方法があります。目的は、構成内容の確認と資料やスライドの文字校正です。
やり方はいろいろとありますが、実際の時間配分で通しでプレゼンを再現するものから構成内容のスライドで抜け漏れや矛盾など構成内容を中心に確認していく方法もあります。
スライドの校正の原則は、第三者に聴衆の視点で他の人に確認して貰い、伝えたい内容が理解されるかを中心に確認して貰います。
競合プレゼンなどの場合では、時間が押し迫った中で資料作成の準備に追われる事もしばしあります。資料完成がプレゼン当日の明け方など、ごく普通な時もありました。
そのような場合でも、スライド資料の文字校正である誤字脱字のチェックは作成した人以外の第三者に必ず依頼しましょう。文字校正の原則として、書類の作成者は何度も資料に目を通しているため誤字やタイプミスを見逃す可能性が高いからです。
心理学では選択的注意 という視覚における認知バイアスが存在します。それは、意識している対象以外は脳が認知しずらくなる現象です。自分で書いた企画書も、誤字脱字などを見逃している危険があることを意識いしておきます。
大まかに企画構成を暗記する
前述したストーリーラインの骨子やその日に伝えたいポイントを、会場への移動中などで頭の中で繰り返し思い出しながら暗記します。
構成の大まかな流れと伝えたいポイントを覚えていれば、仮にプレゼン時間が足りなくなった場合、最後に伝えるべきプレゼン全体のストーリラインとなる骨子のキーワードを繋げれば企画のまとめとして伝えるこも出来ます。
プレゼン時のお役立ちリスト
万が一に役立つ救急セット
またプレゼン当日は時間に余裕を持って会場に入り、AV機器と繋げるPC類の設定を行います。よくあるトラブルとして、電源コードが電源口に届かない、またモニターやプロジェクターの配線接続の型式が持ち込むノートPCと異なる場合があるため事前に設備環境の確認をしておきます。
また、実際にあったトラブルでは、使用する予定のノートPCがプレゼン本番時に動かないトラブルも起こました。同行する他のメンバーには同じデータを渡しておいて、予備ノートPCの準備もしておきましょう。
ペーパレスがビジネスシーンで一般化しスライド資料はデータ納品する場合が多くなりましたが、スライドの印刷物は自分用の台本として持参することで、素早く内容を確認が出来るのも紙ならではのメリットです。
持ち物リスト | 内容 |
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電源の延長コード | 1m程の予備電源の延長できる電源コード |
予備のPCとプレゼン資料のデータ | プレゼンデータを予備PCにも入れて会場に持参する |
スライドの印刷 | 自分用の台本 |
モニター用の映像出力アダプター | 事前に調べて複数の映像出力方法がある場合は可能な限り自身でも映像出力コードを準備する |
このように、あらゆる状況も想定できる細やかさもプレゼンで成功するための要素と言えます。
プレゼンのトレーニング
プレゼンを上達させるための気軽に行えるトレーニング法を3つ紹介します。
プレゼンを上達させる3つのトレーニング法
1. 物語の要約
書籍や映画のストーリーを人に伝えることは、プレゼンのトレーニングとしてもお奨めです。それは、プレゼンにおけるストーリーを的確にまとめて伝える要約力を鍛えてくれます。エレベーター・ピッチなどの要点を絞って手短に伝える訓練にもなり、プレゼンのストーリーライン設定などにも期待が持てます。
2. 道案内のルート説明
分かりやすい伝え方のとトレーニングとして、人に道案内をする説明も情報伝達のトレーニングになります。なぜなら、プレゼンは相手の期待値へ迷わずに案内する行為とも言えます。
そのため、現在地からゴール(=相手の期待)に向けた適切な筋道の構成が重要になります。ポイントは、話の流れにおいて聴き手を迷わさず、かつ、話しについてきているを確認しつつ、簡素で論理的なストーリー展開を意識します。
3. 会場の雰囲気作りを学ぶ
前述したように、達人のプレゼンテーションを拝聴することはセルフイメージ作りだけでなく参考になります。昨今では、オンライン中心の無料セミナーやカンファレンスも多くありますが、聴衆を前にした生のプレゼンを観ることで場の空気作りのなど学びがあります。機会が有れば、会場の雰囲気を肌で感じとることもお奨めします。
まとめ
信頼構築の手段と心構え
最初は「話す」ことで精一杯になりがちで「伝える」為の工夫がおろそかになりがちです。実践を重ねる内に場の空気を読みながら柔軟なプレゼンスタイルが誰でも身に付くと考えます。
JAZZの即興演奏のように、オーディエンスの反応を見ながらプレゼンの流れを調整することも意識してきました。特に、時間管理には一番に気を付けました。繰り返しになりますが、時間が足りなくなり手際の悪さを露出してしまうことは、信頼や印象を損ねてしまいます。
逆に、時間内に質疑応答までそつなく進行できた場合、営業活動では、今後に期待を持たせる場にもなります。時間管理を徹底することは、信頼の獲得にもなりプレゼンの基本の心構えとも言えます。
本稿が、プレゼン初心者の参考になれば幸いです。
- プレゼンは、受け手に対して価値ある情報や企画提案を納得して受け取って貰う伝達手段
- 人前で「プレゼンテーションを演じる」俯瞰した自分を意識することでこで緊張を分散させる
- プレゼンの基本の3要素は、「構成力(シナリオ設計)」、「伝達力(デリバリースキル)」、そして「演出力(プレゼンス醸成)」
- プレゼンは時間の制約があり、受け手が記憶出来る情報量も限られる
- 記憶に残りプレゼンに勝つシナリオ構成は、映画で言えば練り込まれた脚本
- 「言語表現」だけでなく、「非言語」である聴覚情報などの話す速さや声のトーンと視覚情報である目配りやボディランゲージなどでが伝達行為を構成する
- 理解に影響する言語表現と感情へ影響を及ぼす非言語を意識し矛盾しないように配慮
- 話す内容だけでなく信頼できる経験豊かなパートナーであることを訴求することがビジネスでは肝要
- プレゼンは、相手の期待やゴールへ道案内するような行為
参考文献
- ムーギー・キム「世界トップエリートのコミュ力の基本」 PHP研究所 2020年
- 清水 久三子「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」 KADOKAWA/中経出版 2014年
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