アイデア出しの5テクニック
発想のコツとして、規則に則って考えるだけで自然にアイデアを捻出する便利な方法があります。一人でアイデア出しをする時や社内のアイデア会議のブレストでも利用出来る方法を紹介していきます。
一人でも出来る3種と、グループワークなど複数人で活用できる2種、合計5種のテクニックを紹介していきます。
1.二項対立の分析
対極の視点を要いた自動的な発想法(一人ブレスト可)
「二項対立の分析」とは、一つの概念を相対する二つの側面(軸)に分けて考えることで表裏、矛盾や対立などの一対の相関関係を持たせることです。二項対立の具体例を挙げると「全体・部分」、「長期・短期」、「メリット・デメリット」、または属性軸で「男・女」などの切り口があります。
コツとしては、アイデアの発想が手詰まりになった時、1つの視点に新たな観点を掛け合わせたり反対の視点で捉え直したりして新たな問いを立てるのに活用します。特にアイデア自体を飛躍させたい時は、意外な組み合わせを選び出すことで新たな発見が期待できます。
例えば20代女性向けのコスメ商品の宣伝広告で、ターゲットである対象女性の視点だけでなく、その彼氏などのパートナーの視点を取り入れた「女:男」対比型の二項対立の観点を活用することでアイデアの幅が拡げられます。
またコスメなどメイク系商品の広告コンセプトの場合、「どうなりたい」という自己欲求を異性側の視線を利用して「どう見られるか」という外の視線から潜在的願望を高め意志決定となる「こう見られたい」というストーリーを描く手法があります。
特に、異なる視点による二項対立の分析は、従来の概念と異なる新たな切り口を発見するのに優れています。このように対立や矛盾などの軸は覚える必要もなく考えれば思い出せ、一人でもグループでも直ぐにアイデア出しに活用できます。
さらに、二項対立の視点はブレストなどのアイデア出しだけでなく、論点や問題点の整理に役立ち全体を見渡す視野の大局観を養う効果も期待できます。
参考までに、アイデア出しに役立つ主な二項対立の視点軸の例と解説を記載しておきます。
視点軸 | 特徴 | 活用例 |
---|---|---|
「全体」:「部分」 | ・全体像の理解と把握(対比型) | マクロとミクロ視点で論点の全体構造を整える |
「目的」:「手段」 | ・戦略と戦術(対比型) | アイデアの主従関係の整理 |
「作用」:「反作用」 | ・トレンド分析(対立型) | 時代の主流/反主流による次期予測:ゴージャス対ナチュラル、デジタル対アナログなど |
「本質」:「概念」 | ・思考の飛躍(視点変化の対比型) | 対象の実体を抽象化する:車→プライベート時間、心を通わせる空間。 車=移動手段(本質)から、車=時間や空間(概念)で捉える |
「仕組」:「演出」 | ・コンセプト開発(掛け合わせ型) | ・システムとしての仕組みを記憶に残る物語性に発展させる:例)ファーストフォードの気軽な仕組みに、モダンな内装や家具で”居心地の良い自分の場所“を提供するスターバックスなど。 |
2.SCAMPER法(”オズボーンのチェックリスト”の改訂版)
「たら・れば」”if ” 活用の妄想スタイル(一人ブレスト可)
アイデアを9つの質問形式で強制的に空想や妄想を利用して着想を促す「オズボーンのチェックリスト」があります。米国の大手広告代理店でブレインストーミングの創始者としても有名なアレックス・F・オズボーンのアイデアを発散させるための方法です。
この方法のリストの各頭文字を取って“SCAMPER”(スキャンパー)という呼び名で7項目に整理したSCAMPER法は、ボブ・エバールによってオズボーンのリストを覚えやすく改訂した視点変換法の定番の仮説を利用したアイデアの発想法です。
- Substile:「代用」できないか?(時間、場所、方法に置き替える)
- Combine:「統合」できないか?(別の用途や他製品・サービスと組み合わせる)
- Adapt:「応用」できないか?(他業界や類似のものに当てはめる)
- Modify:「変更」したらどうなるだろう?(サイズや要素を変える)
- Put to other Uses:「他の使い方」ができないか?(対象、目的を変える)
- Eliminate or Minify:「排除・縮小」できないか?(ルール・プロセスを無くす)
- Rearrange or Reverse:「並び替えや逆」にしたらどうなる?(プロセスを変える)
SCAMPER法の特徴は、7つの視点変換の質問を検討することで自然と思考を発散させることです。既存の商品、サービス、またプロセス改善や新たな商品開発のヒントを見つけ出す「発散ステージ」でアイデアを量産をする時や、行き詰まりを打開する時に活躍します。
「もし◯◯◯したら、どうなるだろう」という仮定思考の一種で、気軽にアイデアを探索できるので一人ブレストでもお奨めのテクニックです。
3.エスカーション発想法
連想ゲームでアイデアを自動量産(一人ブレスト可)
エクスカーション(Excursion)の語源は、ラテン語で外へ(ex)走り出す(currere)という意味から派生しています。そこから、主題から離れて探索する→遠足・周遊などの意味に結びついていきました。
エクスカーション発想法は、検討する問題に対してトリガーとなる単語:旅行や動物などをランダムに選び、トリガーから連想されるワードを挙げていき、最後に検討する問題との共通点や関連性から新たなアイデアを導く方法です。
特徴として、思いがけない視点へ思考を飛躍させ新たな思考回路を増やすブレインストーミング手法の一つです。
進め方の例では、ファシリテーターがブレスト参加者に、トリガーとなるテーマを選定して連想力と集中力を高めさせます。
そこで感じる想像や感覚をランダムに言葉に記録し、その連想された言葉と検討する問題の類似性などからアイデアを紡いでいきます。
コツは、トリガーとなる連想テーマは、複数を準備しておくことでワークショップの停滞感を回避する準備をしておきます。
例えば、旅行だけでなくその場所の食事、アクティビティなど、複数の連想テーマを利用して短い時間でより広範囲のアイデアを導けるように工夫します。
慣れてきたら、テーマのキーワードは全く関連のない単語を選出してアイデアのさらなる飛躍を試みます。
4.ブレインライティング(635法)
周りの評価を気にしない沈黙のブレスト
ブレインライティングは、テーマを1つ決めて紙に書き出した他人のアイデアに、自分のアイデアを書き足して行くアイデアを発展させる発想法です。一般的なブレインストーミングでは、参加メンバーの性格により発言のばらつきが起こりがちです。その時には、全員で他人のアイデアを参考に便乗してアイデアを発展させます。
“沈黙のブレスト“とも言われており、人前で積極的な意見交換をしないので平等にアイデアを捻出していけるメリットがあります。元々、旧西ドイツの経営コンサルタントが考案した発想法で、6人のチーム構成で、一人で3つのアイデアを5分間で出すことより635法の名前の由来と言われます。
紙に書き出した最初の3つのアイデアは隣の参加メンバーに渡して、その他人のアイデアの下に自分のアイデアを自由に書き足していきます。6人の参加であれば、3×6人x6ラウンド=108のアイデアが捻出できます。
基本、各自が3つのアイデアを出す前提ですすめ、最後に参加者が出そろったアイデアで気に入ったもの全てにマーク(星印など)を書き込んでいき、一番多くの印を獲得したアイデアを抽出する流れになります。
ブレインライティングと635法の詳細な違い
635法のメリットは、発言が苦手な参加者でも平等にアイデアを出せ、かつ、多様な視点のアイデアが収集できます。また、ブレインライティングは635法のスタイルを一部、発展させたものになります。
違いは、最初に廻って来たアイデアに対して第二ラウンド以降のアイデア出しに独自のものを記載するのでなく、廻ってきたアイデアに便乗して発展や補足させてアイデアを育てて継承します。
実施におけるポイント
コツは前の人のアイデをこれ以上は展開出来ないと思った場合は、新規のアイデアを記載します。そのときに、前のアイデアとの間に太線の区切り線を描くなどして分かるように工夫を施します。
人前の発言やブレインストーミングにあまり慣れてない参加者が多い場合は、このブレインライティング方式で他人のアイデアに便乗する方式が進行が円滑になるので覚えておくと便利なテクニックです。
5.シックスハット法(6色ハット発想法)
強制的に視点を変えて多角的にアイデアを検証・創造
最後にチームでも一人でもブレストに使えるシックスハット法(6色ハット発想法)を紹介します。ブレストで意見が食い違いを見せる原因には、捉えている視点が同時に混在している事に気づいてないことに起因することがあります。シックスハット法は6つの視点:「客観」、「感情」、「肯定」、「否定」、「革新」、「俯瞰」で多角的にテーマを検討していきます。
これは水平思考(ラテラル・シンキング)の提唱者でもある、エドワード・デボノ博士(Edward de Bono)によって考案されたシンプルな発想の手法です。どちらにも共通している考えは、「多様な視点から物事を直感的に捉える」ことで、既成概念に囚われないアイデアを導くことが得意とされています。
ちなみに、垂直思考(バーティカル・シンキング)とは、理論的に分析し思考を深掘りして行く思考法で、ロジカル・シンキング、クリティカル・シンキングと類型した問題解決に特化して発想法です。
6つの視点を色の付いた帽子に例えて、どの視点で考えているかを強制的に自覚する仕掛けになっています。演出であるそれぞれの帽子の特徴と役割を説明していきます。
- 白い帽子【客観・論理の視点】
-
事実や数値などの客観的情報(データ)に基づいて意見を出す。
- 赤い帽子【主観・感情の視点】
-
データなどでは見えない対象者の感情を直感的に探索する。(テーマ自体の批評と異なる)
- 黄の帽子【肯定・楽観の視点】
-
利点や恩恵など前向きなポジティブな意見を出す。
- 黒の帽子【否定・悲観の視点】
-
問題点やリスクの発見などネガティブな意見を出す。
- 緑の帽子【革新・創造の視点】
-
新しい考えや概念に展開・飛躍させたり代替案を創出する。
- 青の帽子【俯瞰・管理の視点】
-
俯瞰的に課題とゴールを意識し論点や意見の整理をおこなう(ファシリテーション)。
実施におけるポイント
シックスハット法(6色ハット発想法)の進め方に関しては、チームで行う際はテーマを決めた後に、全員で同じ視点(帽子)で順に色を変えたり、青のファシリテーター役を決めた上で、参加メンバーが異なる帽子(視点)で意見を出し合うやり方の2種類の方法があります。
人数の関係や初めてシックスハット法を行う場合のコツは、全員で同じ帽子の役を進めていくやり方がいいでしょう。またチームの一体感も出て意見が出やすくなる傾向があります。
アイデア発想のステップも一般的には、「白」→「赤」→「黄」→「黒」→「緑」→「青」がアイデアをまとめやすい進め方と考えられていますが、扱うテーマによっては流れを変えたり繰り返すなど自由にアレンジも可能です。
シックスハット法の例題
- ソリューション提案の例
-
「白:状況把握」→「赤:対象者の感情分析」→「黒:問題の洗い出しやリスク確認」→「緑:ソリューションの創出」→「青:まとめ」
- 戦略計画の例
-
「白:現状の整理」→「黄:メリット確認」→「黒:ネガティブチェック」→「青:判断」
戦略提案においては「赤:感情・主観」の軸を利用するケースは少なくなります。また「白:理論」と「赤:感情」、「黄:肯定」と「黒:否定」などは前述した”二項対立の分析”の構造が盛り込まれて、アイデアの発想を活性化する仕組みがシックスハット法(6色ハット発想法)にも活用されています。
また、”色つき帽子”という演出効果で思考の癖を取り除き強制的に視点変化を起こさせます。さらに、人格とアイデアの分離”により、メンバー間の対立関係を回避させアイデア創出をさせる仕掛けも盛り込まれているのがシックスハット法の優れたポイントです。
チームのブレストでも、一人ブレストでもアイデアを創出する時に使える便利なテクニックです。
まとめ
アイデア出しのシフトレバーとなる視点変換マジック
アメリカの大学でデッサンの授業を受けている時、デッサンを行う位置で多くの学生はモデルの正面で描く傾向が見られました。誰もが見据える視点の構図は一般的で、描画技法や表現の解釈で差を付ける工夫が必要となります。
ビジネスでも新たなサービスや商品を提供する場合、視点変換で異なる解釈を付加価値として提供できる場合、差別化による競争の優位性が生まれてきます。
ブレインストーミングの視点変換は、手軽にまた強制的に発想をトップギアに切り替えるシフトレバーの役割です。物事を捉える観点をずらして着想を拡張する行為は、ひらめきだけにに頼るのではない、発想を飛躍させる思考の技術でもあります。
ここで紹介した、5つのブレストの手法とテクニックの一覧を掲載します。一人ブレストでも実行が可能なものもあり、アイデアを拡張させる感覚を探索してみてください。
アイデア出しで役立つ5つの視点変換テクニック:ブレインストーミング一覧表
視点変換テクニック | 特徴 | 必要人数 |
---|---|---|
1. 二項対立の分析 | 異なるもう一つの視点軸からアイデアを整理、展開、飛躍を行うアイデアの成形・飛躍型 | 1人から可 |
2. SCAMPER法 | 7つの設問で自問自答を行うことで新たな問いを導き出すアイデアの応用・発展型 | 1人から可 |
3. エスカーション法 | トリガーテーマを利用した連想方式で自動的にアイデアを紡ぐ量産型 | 1人から可 |
4. ブレインライティング(635法) | 他人の評価を気にしないでアイデア出しのできる連鎖・リレー式の量産型 | ワークショップなど定番発想法(理想は6人前後) |
5. シックスハット法 (6色ハット発想法) | 強制的に固執した視点を解放し論点の足並みを揃えて進めるアイデア量産型 | 6人揃わなくとも可(1人複数の代役なども可) |
- アイデア出しの初動においては、ブレストの交通整理となる心得と言葉の定義で発言の安全領域を確保
- 視点変換は、思考の型を利用することで経験に頼らず手軽に発想を促す
- 固執した思考癖を除くには、無意識で思考を操る連想法や他人のアイデアに便乗するテクニックが有効
- 「発散と収束」の流れを意識し量から質へと発想の純度を高める
参考文献
- アングル「アイデアマンになる ~企画時代を乗り切る発想術」 ソフトバンク クリエイティブ 2005年
- 加藤 昌治 「考具」 CCCメディアハウス 2003年
- 酒井 穣「新版 これからの思考の教科書」 光文社 2013年
- 山名 宏和「大人の宿題ー発想以前の発想法!」 サンマーク出版 2007年
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